少子高齢化による国内市場縮小、米中対立やウクライナ戦争によって混迷を極める世界情勢、カーボンニュートラルに向けての規制強化・・・企業経営を取り巻く環境がますます厳しさを増している。企業としては生き残りの一手段として事業の多面展開を図りたいところだが、新規事業の立ち上げが困難であることは言うまでもない。

 そうした中、アクション・デザイン代表取締役の加藤雅則氏は「両利きの経営は、企業組織が生き残るために必要な能力の獲得を目指す、組織の進化論である」と唱える。

 そもそも企業が生き残るために必要な能力とは何か。「両利きの経営」の提唱者・オライリー教授の日本における共同研究者である加藤氏に説明してもらった。

きっかけは「成功してきた大企業でも衰退するのはなぜ?」

――企業が生き残るために、なぜ「両利きの経営」が必要になるのでしょうか。

加藤 雅則/アクション・デザイン 代表取締役、IESE(イエセ)Business School 客員教授(Visiting Professor)、早稲田大学商学院グローバル・ストラテジック・リーダシップ研究所 招聘研究員

エグゼクティブ・コーチ、組織コンサルタント。IESE(イエセ)Business School 客員教授。2000年以来、上場企業を中心に人材開発・組織開発に従事する。経営陣に対するエグゼクティブ・コーチングを起点とした対話型組織開発を得意とする。「両利きの経営」の提唱者であるオライリー教授の日本における共同研究者であり、オライリー教授のコンサルティング会社 Change Logic社の東京駐在も兼務する。

加藤雅則氏(以下敬称略) 両利きの経営とは企業の組織進化論です。探索活動を通じて、コア事業そのものを進化させる。そのために、事業の目的を再定義し、組織活動をどのように再構築すれば、企業の活性化、ひいては生き残りにつながるかを、チャールズ・A・オライリーとマイケル・L・タッシュマンが20年近く研究した成果です。

 そもそも両利きの経営が生まれた背景は「これまで成功してきた大企業であっても衰退することがある。それはなんでなの?」という素朴な疑問からなんです。

 この疑問を解消する処方箋として1996年に登場させたのが、両利きの経営というコンセプトです。その後2000年代になって、ルイス・ガースナーが行ったIBMの再生に彼ら自身も参加して、同社のトランスフォーメーションの成功に寄与しました。ただ世界銀行のケースにも参加しましたが、こちらは失敗しています。

 まあ、こうした紆余曲折がありましたが、両利きの経営でいわれている「今まで成功したロジックがこれからも通用するかは分からない」という主張をもじって、2007年にChange Logicという会社を起こして、いろいろな事例を積み上げています。

 それが『両利きの経営』という本になり、僕も書かせてもらった2冊目の書籍『両利きの組織を作る』になり、3冊目の『コーポレート・エクスプローラー』という書籍に結実しています。

 組織とは、ある目的を達成するための集合体です。その集合体が生き伸びるには、進化する必要があります。

 そして進化するためには、既存の組織の能力を磨きつつ、新たな能力も手にする必要がある。そうしないと変化に追い付けませんから。

 そこで、両利きの経営では「既存事業に磨きをかける能力」と「新たな事業を探索する能力」という異なる2つの能力を同時に追求できる組織を目指します。

 また、新たな事業や新たな成長領域の探索においては、既存の経営資産や組織能力、ケーパビリティを再活用することを推奨しています。つまり、今の企業の立ち位置から大きく外れたところを選ぶのではなく、自社が築き上げたものを軸として、新たにどの領域に出ていけばよいかを探すのです。

 簡単に言うと、既存事業と探索事業という異なる2つの領域で発揮できる組織能力を同時に有するためにどうするか。これが両利きの経営です。
これを違う言い方をすると、今の組織能力を進化させた形で、新たな領域を探索する。つまり、両利きの経営は、組織進化論とも言えるのです。