「社会の大丈夫をつくっていく。」をキーメッセージに掲げてモノづくりDX戦略を推進しているOKIグループ。同グループでは「組織の変革」「業務プロセスの変革」「新ソリューション創出」「既存ソリューションの強化」の4象限を定義し、それらにもとづいた新戦略を推し進めている。沖電気工業(OKI)の専務執行役員(2022年12月2日現在)で、デジタル責任者を務める坪井正志氏に、戦略の内容からモノづくりを中心とした具体的な事例までをお聞きした。

※本コンテンツは、2022年12月2日に開催されたJBpress/JDIR主催「第15回DXフォーラム」の特別講演2「シンプルに分かる4象限と外部化によるモノづくりDX戦略」の内容を採録したものです。(坪井氏の役職は2022年12月現在)

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OKIが考えるDX戦略の位置づけと目指す姿

「DX」という言葉が注目された当初、国内では聞き慣れない用語だったこともあり「トランスフォーメーション」という言葉を用いずに「デジタル変革」といった表現で取り組みを始めた企業も多かった。その結果、メッセージ性が薄れてしまい、旧来の「IT改革」との違いが理解されにくかった側面もあったのではないだろうか。

 その後、国内のDXの流れは、2018年に経済産業省から「DXレポート」が発行されたことを契機に加速していく。いわゆる“2025年の壁”といった甚大な経済損失をうかがわせるインパクトのある内容を受けて、企業はDX推進を喫緊の課題として捉えるようになった。そこに起こった新型コロナウイルス感染症の流行によって、働き方やビジネスは大きく変化していった。一般市民のライフスタイルや行政サービスなど、企業だけではなく国全体が抱えるIT化の遅れが顕在化したのだ。まさに「DXレポート」に書かれた危機が実感されたことで、DXの流れは急激に広まっているといえる。

 OKIでデジタル部門の最高責任者を務める坪井正志氏は、同社のDX戦略について次のように話す。

「私たちは『社会の大丈夫をつくっていく。』をキーメッセージとして、SDGsへの貢献とサステナブルな起業活動を目指しています。当社のDX戦略は、特にエッジ領域に注力している点が特徴です。現場フォーカスの、リアルなエッジにAI機能を搭載した『AIエッジ』と、バーチャルの『クラウドプラットフォーム』を連携させ、当社の強みである『顧客基盤』『インストールベース』『技術力』を生かしながら、ポジショニングを得て社会に貢献したいのです」

 これまで、社内のITシステムの変革とビジネスモデルの変革は別々に語られるケースが多かった。しかし坪井氏は「これらは一体で考えるべき」だとして、同社のDX戦略である「DX4象限」を提示する。縦軸に「ビジネスモデル変革(上)」と「ビジネスプロセス変革(下)」。横軸には「生産性強化(左)」と「競争力強化(右)」を配置する。それにより、次のような4つの象限に区分けできるという。

 第1象限 新ソリューション創出(右上)
 第2象限 組織の変革(左上)
 第3象限 業務プロセスの変革(左下)
 第4象限 既存ソリューション強化(右下)

 左側半分が「自社内に向けた強化(自社内のDX)」、右側半分が「対外的な強化」と位置づけられ、上部はクリエーティブな領域、下部は生産性や効率性が主題となる領域だ。坪井氏は「これらが別々に存在するのではなく、4つを組み合わせることによってDX戦略が成り立つ」と説明する。

「DX4象限」にもとづいて考えるDX戦略

 OKIグループの「DX4象限」を経営戦略に置き換えて深掘りしていきたい。

 第1象限の新ソリューション創出領域では「AIエッジ戦略」を推進しているという。また昨今は、小売業や金融などの店舗でサービス提供側が行っていた処理が客側に移る“非対面・非接触”への取り組みが進んでいる。こうした中で、同社ではATM機器の製造で培った技術を生かし、現金処理のモジュールも含めた貢献ができると考えている。これは第4象限の「既存ソリューション強化領域」における具体的な戦略でもある。

 併せて同社は、自社のモノづくりの能力を生産サービスとして外販していく考え方を持ち合わせている。そのため第2象限の「組織の変革領域」の軸として「全員参加型イノベーション」を据えた。イノベーション・マネジメント・システム(ISO56000)を早期に導入するなど、研究開発と共創イノベーションの実現を目指していると坪井氏は説明する。

 そして第3象限の「業務プロセスの変革領域」では、モノづくりの基盤強化が非常に重要なポイントになると捉えている。自社製品の開発・生産を行いながら、それ自体をプロセスとして外販していく考え方をもって戦略を実践している。

「私たちは、自社内で強化したものを対外的な強化につなげることを『外部化』と呼んでいます。これは内製していたものを外部に出すアウトソーシングのことではありません。自社の技術・プロセスを、顧客のニーズの深掘りやパートナーとのアライアンスなどを含めて、製品サービスとして提供していく『エクスターナライゼーション』という位置づけです。こういった考えを持つことで、内部と外部を初めから一体で捉えることができます」