DXを成功に導くためには、デジタル分野に秀でた人材の確保やそれを生かせる組織体制、そして開発したプロダクトやサービスをトライアル&エラーで運用していく経験など、さまざまな要素が必要になる。三井不動産は、新型コロナウイルスの感染拡大以前からこうした取り組みを積極的に行い、DXで成果を挙げてきた企業だ。同社が具体的にどのような取り組みを展開してきたのか、執行役員DX本部長の古田貴氏が語る。

※本コンテンツは、2022年11月30日に開催されたJBpress/JDIR主催「第15回 DXフォーラム 組織を変える、社会が変わる。DXのその先へ。 DAY1」の特別講演1「テクノロジーで不動産業そのものをイノベーション。5年間の歩みとこれから」の内容を採録したものです。

「リアル✕デジタル」をコンセプトに、デジタルを活用した事業変革を推進

 三井不動産は1941年に設立され、現在は従業員数・約2万4000名、売上高・約2兆1000億円を誇る「街づくり総合デベロッパー」だ(従業員数、売上高ともに連結)。直近の開発事例としては、50 ハドソンヤード、東京ミッドタウン八重洲、三井ショッピングパーク ららぽーと福岡などが挙げられる。

 同社では、DXに本格的に取り組み始めた2017年を「DX元年」と名づけ、その翌年には、DXの戦略方針として「DX VISION 2025」を掲げている。そしてこの方針の大きな柱となるのが、顧客志向で社会課題を解決する「事業変革」と、生産性を向上し従業員満足度を高める「働き方改革」の2つである。

 1つ目の事業変革におけるポイントになるのが、「リアル✕デジタル」をコンセプトに、全ての事業に対してDXポリシーを浸透させている点だ。三井不動産はオフィス、ホテル・リゾート、住宅、物流施設、商業施設といった多様なアセットタイプを保有し、それぞれ異なるターゲットやビジネスモデルで展開しているが、その全てにデジタルを組み合わせる意識を持っている。

 代表的なものに、企業の働き方改革を推進するサテライトオフィス「ワークスタイリング」がある。企業のサードプレイスとして活用されているこのオフィスは、2022年11月時点で全国150の拠点があり、契約企業は800社、会員数は23万人にも上る。スマホでチェックインや個室の予約ができるだけでなく、社員がどのような働き方をしているのかを企業側で確認できるよう、利用状況を可視化したダッシュボードも提供されている。

 商業施設における事例としては、300万人の会員に提供しているオムニチャネルECモール「&mall(アンドモール)」がある。会員は&mallで下調べをした後に三井ショッピングパーク(MSP)で買い物をしたり、逆にMSPで買い物をした際に決めきれなかった商品を後日&mall経由で購入したりというように、リアルとデジタルを相互に体験できる。

 三井不動産株式会社執行役員DX本部長の古田貴氏は、こうした取り組みについて次のように話す。

「生活に関わるさまざまなシーンで、三井不動産の強みであるリアルのアセットにデジタルを組み合わせたサービスを提供しています。これはまさに、『不動産業そのものをイノベーションする』という経営方針を体現しつつあるといえます」