ライフスタイルの変化、規制緩和、フィンテックの台頭など、金融機関の経営環境は激変の一途。今やDXによる変革は待ったなしです。金融業界におけるDXキーパーソンへのインタビューにより、DX戦略の全体像から、データ活用、CX、カルチャー変革、デジタル人材育成まで、金融DXの最新の事例を取り上げます。
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DXで大事なのは全員が自分ごととして捉えること
「お客様の信頼をあらゆる事業活動の原点におく」という経営理念に基づき、グローバルな保険グループとして成長し続ける東京海上ホールディングス。デジタルを活用したビジネスモデルの変革にも早くから取り組み、2022年には「DX銘柄2022」に選定されるなど、そのスピリットが高く評価されている。豊富なキャリアを持ち、東京海上グループのDX推進の中核を担う常務執行役員 グループCDOの生田目雅史氏に、これまでの取り組みや成果を聞いた。
――ご経歴を教えてください。
生田目 1988年から10年間、日本長期信用銀行で主にデリバティブ商品の商品開発とリスク管理の業務を行っていました。1998年から2年間は、金融監督庁の職員とKPMGでの金融機関向けのコンサルティング業務を兼業で行った後、2000年からドイツ証券やモルガン・スタンレー証券で通算13年ほど投資銀行の業務を行いました。2012年からビザ・ワールドワイド・ジャパンで電子決済の高度化やプロモーションなどを行い、2015年はブラックロック・ジャパンで日本の経営企画部門と機関投資家部門の担当取締役を務めました。2018年に東京海上ホールディングスに入社いたしまして、2021年からグループCDOとして仕事を行っています。東京海上ホールディングスは、投資銀行に在籍していたときのお客さまであり、お仕事をご一緒させていただく機会もありました。加えて、日本の金融機関の中でも際立ったグローバル戦略とトランスフォーメーション能力のある企業だと感じたのが入社を決めた理由です。
――東京海上ホールディングスがDXに取り組んだきっかけを教えてください。
生田目 企業が成長し続けるためにはトランスフォームをしていかなければいけないという意識は、当社の中では随分早い時期からあったように思います。例えば、約20年前から業務プロセスの抜本改革を行うなど、長い年月をかけて経営効率化に取り組んできました。保険事業の業務プロセスをデジタルで効率化することを目的の1つとして、2020年に立ち上げた「ミライプロジェクト」などは、そうした従来の取り組みの延長線上にあると思っています。
本格的にDXに取り組むようになったきっかけは、そうした取り組みをさらに加速したいということが1つ。近年、急速に進んだデジタルテクノロジーという視点から、DXが非連続の価値を創造する可能性が極めて高いと感じたことも理由の1つだと思います。
ただ社内でよくいわれているのは、「ミライプロジェクト」は入り口こそデジタルのプロジェクトだったけれど、目指しているのはデジタルを使いこなすヒューマンのプロジェクトだと。従って、スタートしてから3年目となる今年は、デジタルとヒューマンの能力が最大限発揮できる状態を実現するということを目標に掲げています。
――具体的には、どこからDXに着手したのですか。
生田目 まずは自社のあらゆる業務を棚卸しし、どこが人の時間がかかるか、どこが紙のウェートが大きいのか、といったようなことを一つ一つつぶし込んでいきました。また、最も大事なお客さまとの接点も、デジタルな手続きそのものに価値があることを強く意識し、契約プロセスをゼロベースで見直しました。
――業務プロセスを見直す中で、デジタル化に対して消極的な捉え方をする社員の方はいらっしゃらなかったのでしょうか。
生田目 デジタルが苦手な人や、一定の不安を感じる人はいると思います。ただ、われわれ自身がデジタルの価値を実感しなければ、本当の意味で代理店さんやお客さまにデジタルサービスを届けることはできないと思いますので、あらゆるレベルでの意識改革を行っています。
従業員のデジタル能力の開発・育成に関しては、能力に応じた人材育成の機会を提供しています。DX人材育成プログラム「Data Science Hill Climb」を卒業した人には、データサイエンティストとしてデジタル化を実装する開発を行ってもらう。例えば、当社にはオリジナルのAI音声認識プログラムがあります。AIが電話の会話からキーワードを拾って分類するようなプログラムで、既に実装され、お客さまからの電話の用件を自動で分別することで業務効率化に役立てていますが、このAIを開発したのはData Science Hill Climbの卒業生です。
また、社員の希望に基づき、全国から本店のコーポレート部門のプロジェクトに参画できる「プロジェクトリクエスト制度」を作りました。例えば、いわゆるスマートシティ構想というものには、デジタル領域の事業の種がたくさんありますが、この制度を活用してスマートシティのチームを設置し、事業領域の探索にあたっています。まさに全国の多様な能力をデジタルで結集して、そしてデジタルに能力を展開するということのよい例となり、社員の能力育成にも大きく貢献していると考えています。
さらに、IT部門との連携を強めてノーコード・ローコードをどんどん社内展開する動きがあり、何千件ものプログラム実装が少しずつ進んでいます。このように実務を通じた能力開発がどんどん進むことで、デジタル能力をいかんなく開発・発揮していただきたいと思っています。
――そうした経験を重ねるうちに、DXを自分ごととして捉えられるようになりますよね。
生田目 おっしゃる通りです。DXで大事なのは、全員参加です。デジタルの能力を自主的に実感して初めて非連続にチャレンジしようというスピリッツや、非連続を作っていきたいという探索能力が生まれます。私は、非連続という言葉はデジタルの語源だと思っています。デジットはデジタルの名詞形であり、「桁が変わる」という意味で非連続につながりますから。非連続な価値創出は、努力しないと生まれません。そこに込める熱意と能力とエネルギーこそが、デジタルトランスフォーメーションの根源となります。社員一人一人がデジタルにかける思いを実感して自分ごととして捉える。その能力の総和がデジタルトランスフォーメーションの力につながると思っています。