金融庁総合政策局 イノベーション推進室長/チーフ・フィンテック・オフィサーの牛田遼介氏(撮影:今祥雄)

 金融サービスと先端テクノロジーを組み合わせたフィンテック分野の成長には目を見張るものがある。世界各国でフィンテック企業が生まれ、日本国内でもユニコーン企業の誕生が期待されている。フィンテック領域での拡大を目指すスタートアップ企業や大手企業のフィンテック分野の参入を後押しすべく、金融庁はイノベーションを推進する専門部署を立ち上げ、金融機関や事業者の支援を行っている。その取り組みや、日本企業が強みを発揮するためのポイントなどについて、同庁総合政策局イノベーション推進室長兼チーフ・フィンテック・オフィサーの牛田遼介氏に聞いた。

金融庁のイノベーション推進室が事業会社を支援

出所:イノベーションの推進に向けた金融庁の取組み「金融庁フィンテック関連部署の変遷」
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——金融庁では、イノベーション推進室を2022年7月に設立しました。どのような経緯で設立することになったのですか。

牛田 遼介/金融庁総合政策局イノベーション推進室長 チーフ・フィンテック・オフィサー

金融庁においてイノベーション推進施策を担当するとともに、FATF暗号資産コンタクトグループ共同議長として暗号資産のAML/CFT関連の国際的なルールメーキングに従事。2019年から2021年にかけて、ジョージタウン大学Cyber SMART研究センターにおいて分散型金融システムのガバナンスに関する研究に従事した。東京大学工学部卒。ロンドンビジネススクール金融学修士。

牛田遼介氏(以下敬称略) 金融庁の重要な役割は金融システムの安定、利用者保護、金融犯罪の防止などを確保するために規制監督を行うことです。

 一方で、個人や企業に対して、よりよい金融サービスが提供されることも重要です。金融事業者の方々には、テクノロジーも活用しながら、イノベーティブなサービスを生み出していただきたいと考えています。そのために必要な支援を行うのがイノベーション推進室の重要なミッションの1つです。

 金融庁というと、「厳格な規制当局」という印象を持たれがちです。もちろん、活用するテクノロジーや事業規模によらず規制要件は遵守していただく必要がありますが、イノベーション推進室はもう少し柔らかいインターフェースになりたいという思いもあります。監督部門に正式な相談に行くにはまだ早い、大まかなアイデア段階からご相談をいただくことも多く、監督部門と事業者の皆さまの橋渡しをするようなイメージです。

——実際に、事業者とコミュニケーションを図るような取り組みも進めているそうですね。

牛田 東京・大手町にFINOLAB(フィノラボ)という、金融分野のオープンイノベーション拠点があります。フィンテック関連のスタートアップ企業が数十社以上入居しているほか、大手銀行、生損保会社などの金融機関もメンバーとして参画しています。金融庁もこのFINOLABにスペースを借りていて、当室のスタッフもここで仕事ができるようになっています。私も訪問して、雑談をしたり、ワークショップに参加させていただいたりなどしています。金融庁のオフィスに行くのは面倒だという方も多いのですが、こちらからお声掛けすると、ご意見やご要望、ご相談などをざっくばらんにしていただけることも多いです。

 特に、ブロックチェーンやAI(人工知能)など新しい技術を使ったサービスを提供しようとする場合、ビジネスモデルも複雑となるケースが多く、当庁側と事業者の方々の間で相互理解が進まず、結果として業登録までなかなか辿りつかないといった話も聞きます。当室としては、事業者の方々にも監督担当の同僚にも便利屋のように使ってもらい、結果はどうあれ両者が建設的な議論ができるように汗をかくことを心がけています。