ビジネス書の名著・古典は多数存在するが、あなたは何冊読んだことがあるだろうか。本連載では、ビジネス書の目利きである荒木博行氏が、名著の「ツボ」を毎回イラストを交え紹介する。 

 連載第7回は、ジレット、フィリップ・モリスなど、長期間にわたり傑出した業績を上げ続けた11社に共通する特徴を分析したベストセラー『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』(ジム・コリンズ著、日経BP)を取り上げる。

グレートカンパニー11社は、本書刊行後にどうなったか?

ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』(ジム・コリンズ著、山岡洋一訳、日経BP) 

『ビジョナリー・カンパニー2』は日本国内では2001年に発売された。

 前作『ビジョナリー・カンパニー』の人気を引き継ぎ、ジム・コリンズらが5年にも及ぶ入念なリサーチを踏まえて出版したこの続編は大いに話題になり、ベストセラーにもなった。

「第5水準のリーダーシップ」や「誰バス(誰をバスに乗せるか)」といったこの本が起点になった流行り言葉も生まれた。

 当時の大半の経営者はこの本を読み、そして少なからず影響を受けたはずだ。

 あれから20年以上の時が経過した。

『ビジョナリー・カンパニー2』の根拠となった「グレートカンパニー」の11社はその後どうなったのだろうか?

 その命運は、決して褒められたものではない。ファニーメイやサーキット・シティのように経営破綻した会社もあれば、ウェルズ・ファーゴのように不正により凋落してしまった企業もある。

 あれだけみんなが熱狂した本書のエビデンスである11社の現状を踏まえると、この本を今読むべきか、このメッセージをどう受け取るべきなのか、と戸惑う人もいるだろう。

 しかし、こんな批判的な問いが脳裏によぎるからこそ、この本を今再び読むべきだと私は考える。

 私はビジネススクールの授業やイベントなどを通じて多くの読書会をしてきたが、その場で感じることがある。

 それは、読者である私たちは、本に書かれていることをうのみにし過ぎということだ。書かれていることを無批判に受け取ってしまう。

 しかし、どれだけ研究をし尽くしたとしても、著者は全知全能の神ではない。この複雑化するビジネスの法則を読み解くことはできないのだ。

 しかし、そんなことは百も承知のはずなのに、私たちはどこかで、完全無欠のバイブルがあると期待してしまう。その通りやれば必ず経営はうまくいくのだと。

 そんなはずはないのだ。

 全てのビジネス書に書かれていることは、とあるタイミングで、とある特定の環境に置かれたプレーヤーたちが通用したやり方に過ぎない。

 そして、今を生きる私たちの目の前に広がっている世界は、タイミングも環境も異なる。だからこそ、そのままうのみにするのではなく、批判的な視点を持ちながら、自分の頭でアレンジしていかなくてはならないのだ。

 著者にリスペクトを払いながらも、決してうのみにしない。

 批判的に向き合いつつ、本質部分を丁寧に咀嚼する。

 これこそが、いかなるビジネス書を読む時でも忘れてはならない姿勢だ。