「イノベーションの本質は『発明』ではなく、『社会実装』と『スケール化』させることにある」。経済学者ヨーゼフ・シュンペーターの教えをもとにイノベーションの本質について語るのは、京都先端科学大学大学院教授 であり一橋ビジネススクール客員教授を務める名和高司氏だ。組織がイノベーションを生むために、リーダーに求められることとは何だろうか。次世代イノベーションを生み出す構造と実践に必要な心構えについて、名和氏が解説する。

※本コンテンツは、2022年12月2日 (金)に開催されたJBpress/Japan Innovation Review主催「第15回 DXフォーラム」の基調講演「次世代イノベーション」の内容を採録したものです。

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メビウスモデルがもたらす次世代イノベーション

 20世紀を代表する経済学者ヨーゼフ・シュンペーター が提唱する経済理論の一つが「イノベーション」だ。京都先端科学大学の教授であり、一橋ビジネススクールで客員教授を務める名和高司氏は、シュンペーターが定義するイノベーションの本質を次のように解説する。

「イノベーションは外ではなく、内側から生まれます。また、0から1を生む『発明』ではなく、既存のものを『異結合』して創出するものです。同時に、本質は社会実装しながらスケール化させることにあります。『技術革新』ではなく『市場創造』というべきものであり、今のビジネスの中に埋もれている資産を『創造的な破壊』によって新しいものに変えていく必要があります。なお、『Blue Ocean(競争相手がほとんどいない市場)』はすぐに『Red Ocean(競争相手が多く存在している市場)』になる ため、BlueとRedの間の『Purple Ocean』にずらすことが大事です」

 名和氏は、イノベーションを持続的に生み出す組織の動き方として「メビウスモデル」を取り上げる。メビウスモデルの出発点は「顧客現場」だ。顧客、さらには未顧客のフィードバックを組織のDNAに照らし合わせながら、「顧客の声」の意味合いを明確化することが原点となる。そして「顧客現場」で見つけた発見を「組織のコアコンピタンス(核となる能力) が潜んでいるゾーン」に落とし込まなければならないという。組織が持つ強みと突き合わせながら未来を読み解くことで、「顧客の未来」と「自社の潜在的な能力」が掛け合わされ、他社に模倣されにくい新しいコンセプトが生まれるのだ。

 しかし、日本企業の多くは「顧客現場」で見つけた発見を、すぐに「事業現場」や「顧客洞察」に落とし込む傾向が強いため、イノベーションの創出に苦労するという。なぜなら前者は単なる「改善」に過ぎず、後者の場合においても、すぐに模倣されてしまうコンセプトしか生み出せないからだ。

 さらに、「コアコンピタンスのゾーン」を経て、その企業ならではの「顧客洞察」が生まれても、すぐに「事業現場」に持ち込んではならない。これではすでに組織が所持している資産でしか市場をつくることができないからだ。「成長エンジン」としての事業モデルをつくり出す作業が必須となる。

 名和氏は、新しいイノベーションを継続的に生み出す「メビウス運動」 を行うためには「三つのミドル機能」が必要であるという。