今、ベンチャー企業だけではなく大企業でも、変化に強く、イノベーションを生み出す組織のあり方として「ネットワーク型組織」に注目が集まっている。しかし、歴史が長く、人数も多い大企業では一筋縄にはいかない。当連載は、ネットワーク型組織の本質を解き明かし、自社に導入、運用するための手順や留意点を解説した書籍『変化に強く、イノベーションを生み出す ネットワーク型組織のつくり方』(北郷 聡、橋本 洋人著/すばる舎)から一部を抜粋・再編集してお届けする。
第2回となる今回は、デジタル技術の革新やミレニアル・Z世代の社会進出など、組織をめぐる環境の変化を改めて整理した上で、変化に強く、イノベーションを生み出すため、これからの組織に必要な3つの大きな変化について解説する。
<連載ラインアップ>
■第1回 「ネットワーク型組織」が必要な理由と時代が求める組織変化
■第2回 今後、必要になる組織要件・3つのポイント(今回)
■第3回 ネットワーク型組織として組成すべき対象組織
■第4回 ネットワーク型組織の体現に成功している企業の事例【サイバーエージェント】
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今後、必要になる組織要件・3つのポイント
これからの時代において、組織に求められる要件とは何だろうか。これまでに述べてきた時代・環境の変化と、そこから導出される組織への要請を整理すると以下のようになる。
・市場環境の変化スピードが飛躍的に高まった結果、企業には柔軟、かつ迅速な変化対応力が求められる
・デジタル技術革新の結果、個人が情報受発信の中核になる
・定型的なオペレーションは自動化され、個人には、より創造的な仕事が求められる
・人の価値観・考え方の多様化が進んだ結果、目的や「やりがい」を重要視した組織運営の必要性が高まる
・所属・場所を問わない働き方ができるよう、副業・兼業・リモートワークなどが可能な組織であることが求められる
このような要請に応えていくため、大きく3つの変化が必要と考える。
1. 「業務中心」の設計から「人間中心」の設計へ
デジタル時代において情報格差は埋まってきており、むしろ組織より個人のほうが先端的な情報を持ち、受発信の中核になっていることは先にふれたとおりである。情報化によって顧客ニーズ変化の度合いや多様化は、ますます加速していく。そうなった時、組織的に上位ポジションの人材にすべての情報を上申し、判断を仰ぐ意思決定モデルは限界を迎えてくる。
デジタル化以前の時代は、判断に必要となる知見・情報が可視化されきっておらず、年長者の経験・勘を含めた見解が非常に重要視されていた。答えを持ち得るのは一部の上位者で、組織の頭脳として、多くの下位者がピラミッド型の階層構造に配置され、手足となって動く構造が理にかなっていた。業務が最も円滑に進む流れで組織が組まれ、必要な「人土(にんく)」として人材が配置されるという順序で組織が検討されていた。
今でもオペレーション業務(定型業務)を行う組織はこのやり方が理にかなっているが、デジタル時代において、特に、企画の分野では異なってきている。企画の分野においては、顧客ニーズの変化速度と多様化に対して一人の上位者が常に最善の答えを出していくことはもはや不可能である。以前のように優秀な一部のベテランが新商品のプロデューサーになる、ヒット商品を生み出した実績あるマーケッターが常に新商品戦略立案の中心にいる、といったことが今後も続くのは難しい。
ではどうすればよいのか。多様な価値観が存在する世の中において、それぞれの分野で既成概念に捉われず、新しい価値観や顧客・スタッフとのやり取りにかかわりを持つ個人がリーダーとして活躍していくことである。これからは個々人が「ここにニーズがある」「これが変化する」といった事象をいち早く察知し、データで実証し、チームを組成し、先行的に攻略できた組織が市場の勝ち組になる。
そのためには、個人をリーダーにして、その人物を中心に仕事を設計し、チームを組成できるような形の組織にする必要がある。年次を問わず有能な人材が自ら手を挙げ、会社からリソースを得て、一定レベルの責任と権限を担い、ミッションを一定期間任されるような仕組みと、上位層はその支援役になる組織運営が重要になってくる。
このあたりは後述の第1章02の事例パート(43ページ~)、および第2章の組織設計パート(86ページ〜)以降で詳しく述べていくが、ここでも少しだけふれておきたい。