いま、エンタメ&メディア業界において、「ABEMA」の格闘チャンネルの勢いがすごい。昨年6月に開催された「THE MATCH 2022」では、メインイベントである「那須川天心 VS 武尊」をはじめとした全試合を独占生中継し、都度課金型のPPV(ペイパービュー)方式で50万枚を超える券売実績を残すなど、群雄割拠の動画配信サービス市場で急激に存在感を高めている。今年3月には、武尊選手と1試合で最低1億円の報酬を保証するという破格の条件で専属契約を締結したことでも話題をさらった。日本のエンタメ&メディア業界の“台風の目”ともいえるABEMA(運営会社:AbemaTV)で、エンタメDX本部長を務める藤井琢倫氏に、ABEMA格闘チャンネル躍進の秘訣や今後の展開を聞いた。

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ABEMAが格闘コンテンツに注力する狙い

――ABEMAでは格闘チャンネルの勢いがすごいですね。格闘技に力を入れている理由は。

藤井琢倫氏(以下敬称略) 2000年代に入り、亀田三兄弟のボクシングや格闘技イベントの「K-1」「PRIDE」などが社会現象になりました。このことからも分かるように、心技体を極めたアスリートが1対1で戦うというコンテンツには、非常にユーザーを引きつける力があります。

藤井 琢倫/ABEMAエンタメDX本部長、サイバーエージェント 執行役員、OEN 代表取締役社長

立教大学を卒業後、2006年サイバーエージェントに入社。 芸能人ブログ、原宿Ameba Studioの立ち上げを担当。その後「Ameba」のエンターテインメント部門長、広告部門長を経て 「AbemaTV(現:ABEMA)」の立ち上げに参画し、現在はエンタメDX本部長を務める。2020年には、サイバーエージェントの子会社としてOENを設立した。

 そこで、このジャンルに力を入れることで多くのユーザーを集客できるのではないかと考えたのがきっかけです。武尊選手や那須川天心選手など、今後スターになりうる人材がいたことも、われわれの背中を押す一つの要素になりました。

――ABEMAの格闘コンテンツの中でも、特に注目されているのが都度課金型のPPVです。PPVの実績を教えてください。

藤井 ABEMAは基本無料で視聴できるのですが、サービスをより楽しんでいただける有料プラン(ABEMAプレミアム)、そしてPPV(ABEMA PPV ONLINE LIVE、以下ABEMA PPV)コンテンツがあります。2017年に開催された「亀田興毅に勝ったら1000万円」、2019年の「那須川天心にボクシングで勝ったら1000万円」はいずれも生中継にて無料放送したのですが、どちらも当時の最高視聴数を叩き出しました。

 昨年6月に開催された「THE MATCH 2022」に関しては、50万枚以上の券売実績となりましたが、おそらく日本国内のみならず、アジアでも過去最高の売り上げではないかと思います。また、今年2月に行われた武藤敬司さんの引退試合も、ABEMA PPVのプロレスのジャンルにおいて最高券売数を記録しました。

2022年6月19日に東京ドームで開催された「THE MATCH 2022」
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――3月29日に、ABEMAが武尊選手との専属契約を締結しました。日本人初の“PPVファイター”の誕生、「ABEMA PPV ONLINE LIVE」で配信する大会では、1試合ごとに最低1億円の報酬保証など、大きな話題を呼びました。

藤井 ABEMAの開局当初から、格闘チャンネルにてK-1の大会を生中継し、武尊選手に格闘チャンネルの視聴数を牽引していただいていたので、その恩返しの意味もありました。また、われわれには次のステップとして、日本国内だけではなくグローバルに活動の幅を広げるというミッションがあります。

 私は、スターになる選手の要素は二つあると思っています。一つは、なんといっても強いこと。もう一つは、セルフプロデュースができることです。その両方を備えている武尊選手とタッグを組めば、ABEMAの格闘チャンネルをグローバルに進出させる可能性が広がると思ったので、PPVファイターとして専属契約をする運びとなりました。

3月29日に都内で行われた緊急記者会見の様子。ABEMA格闘チャンネル・エグゼクティブプロデューサーの北野雄司氏(左)と握手を交わす、武尊選手(右)
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