吉本興業がエンターテインメントのデジタル化を加速している。その軸となるのが2021年に立ち上げたプラットフォーム「FANY(ファニー)」だ。オンライン上でのチケット販売やライブ配信、ファンクラブやクラウドファンディングを運営する。2022年からはメタバース事業にも進出し、今年5月には、ゲームのグローバルプラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」上でゲーム開発などを行う「FANY X Lab on Roblox」の設立を発表した。新技術を積極的に取り入れながら、多様化するファンとの関係を進化させる吉本のDX戦略について、FANY事業を統括する吉本興業ホールディングスの子会社、株式会社FANYの梁弘一代表取締役社長に話を聞いた。
「いまDXを加速させないと生き残れない」という危機感
──コロナ禍の中で「FANY」を立ち上げました。導入の経緯や目的、これまでの実績について教えてください。
梁弘一氏(以下敬称略) エンタメのDXをこのタイミングで加速させないと生き残れないという危機感がありました。
コロナ禍が始まった2020年の3月に、常設劇場を含め、吉本興業の主催興行はすべて中止になりました。芸人さんに何か仕事をしてもらわないといけないということで、自宅からYouTube配信をする「吉本自宅劇場」をはじめ、その後、有料ライブ配信をスタートしました。
当時は「ONLINE チケットよしもと」でチケットを販売していましたが、グッズのEコマースやファンクラブ、クラウドファンディングなどいろいろなサービスが個別に存在していたので、2021年4月に「FANY」という一つのブランドに統合するところから始めました。
この時、「よしもと」という名前をあえて使わないことを決めました。コンテンツを幅広く捉えたいと考えたからです。つまり、吉本興業だけでなく他事務所さんのコンテンツも扱いたいし、芸人やタレントのみならず、音楽やアイドルのチケットも扱うプラットフォームに育てたいと。
実際にいま、事務所間の交流ライブなども積極的に行っていますので、他事務所さんにもお声がけし、いろんな事務所のチケットを取り扱っています。放送局さまとの共催イベントや音楽、ミュージカルのライブも増えてきています。これはあえて「よしもと」のブランド名を使わなかったことが活きています。
──FANYにはファンの顧客情報が蓄積されていきます。こうしたデータをどのように活用されていますか?
梁 FANYを利用する際には「FANY ID」を作っていただく必要があります。このIDを通じてお客さんをより正確に知ることができています。
例えば、思っていた以上に40代、50代のお客さんがアクティブですし、数年前より女性比率が上がってきている。一方、地域的に関西が強いのは変わりません。属性に加え、お客さんのニーズを細かく把握できるようにもなっています。寄席公演が好きか、単独ライブや企画ライブが好きかとか。
こうした顧客情報を蓄積・分析し、マーケティングのオートメーション化とパーソナライズ化を進めています。例えば、Aという芸人が好きな人はBという芸人も好きになる傾向が高いので、Bの公演情報もあわせてメールでプッシュするとか。一定の成果は出ていますが、さらに精度を高めていく必要があります。