U2、マドンナ、マイケル・ジャクソンなど数々の世界的アーティストによる日本公演の実現やNFL、NBAの日本初開催の興行を手掛けるなど、日本のエンターテインメント業界の発展に寄与し、世界を股にかける伝説のプロモーターとして確固たる地位を築き上げた「ドクターK」こと北谷賢司氏。現在、金沢工業大学虎ノ門大学院(KIT虎ノ門大学院)で教授を務める北谷氏に、日本のエンターテインメント業界への見解と未来予測を聞いた。

――北谷教授は、長きにわたり日本のエンターテインメント産業に多大な影響を与えてこられました。現在はKIT​コンテンツ&テクノロジー融合研究所の所長も務められていますが、こちらの活動について教えてください。

北谷 賢司/金沢工業大学虎ノ門大学院 教授 Ph.D. 同コンテンツ&テクノロジー融合研究所 所長

インディアナ大学テレコミュニケーション経営研究所副所長、日本テレビ放送網顧問、TBSメディア総研社長、東京ドーム取締役兼米国法人社長。ソニー執行役員兼米国本社エグゼクティブ・バイス・プレジデント、ぴあ 取締役、ローソン 顧問、ワシントン州立大学コミュニケーション学部メディア・マネジメント学栄誉教授を歴任後、avex International Holdings Singapore 代表取締役社長に就任、同社特別顧問を経て現在に至る。専門はメディア・コミュニケーション法及びメディア・エンターテインメント経営であり、学術とビジネスの両面において豊富な経験を有する。

北谷賢司氏(以下敬称略) KITコンテンツ&テクノロジー融合研究所は、特に産業界の方に最新のメディアエンターテインメントの情勢をお伝えすることを目的として、2010年に設立した社会人向けの研究・教育機関です。業界で実績のある方々を客員教授としてお招きしているので、定期的にセミナーを開催するなど、幅広いニーズにお応えすることが可能です。

――KIT​コンテンツ&テクノロジー融合研究所設立の狙いは?

北谷 日本の学校には、学問の基礎となるコミュニケーション学やスピーチ学といったカリキュラムがほぼ存在しません。また、産業論としてのメディアエンターテインメントを追究している大学院やMBA課程もほとんどありません。欧米などでは、エンターテインメントローやエンターテインメントマネジメントを大学で学問として取り入れているため、著作権や映像理論、音楽理論といった基礎的な知識もあるエンターテインメントエリートがどんどん育成されてきました。ところが、日本にはそうした学習体系がまだ確立されていないため、産業構造の中で人を育てたり、きちんと教育を受けた人によって産業を構築するといったことが形式上なされていません。そのような背景から、社会人向けの大学院としてKITコンテンツ&テクノロジー融合研究所を設立しました。

――日本のエンターテインメント業界の現状を、どのように捉えていらっしゃいますか。

北谷 放送や映画、出版といったメディア系企業のデジタルアダプテーションが非常に遅れていると感じます。海外の企業は、最初からグローバルマーケットを視野に入れて、コンテンツを基にした利権を利益に変換する方法を検討してきました。それに対して日本は、国内だけでコンテンツを展開していても利益を上げられる時代が長く続いてきた。それにより、グローバルな視座でデジタルエンターテインメントやデジタルコンテンツのビジネスを展開しようと努力する企業がほとんど存在しなかった。それが、現在の日本のスタグネーション(停滞)の原因だと思います。

 例えば、現在の国内の映画産業は製作委員会方式がとられています。そうすると、複数の出資企業の意向を反映しコンプロマイズされた(折衷案としての)作品が多くなり、オリジナル脚本などのクリエーティブな作品を作ることが難しくなります。

 それに対して韓国などは、1980年代から優秀な人材をアメリカで学ばせており、今では、そうやって教育を受けた500人以上の人たちが、映画・テレビ産業のコアとなっています。それが功を奏して、映画「パラサイト 半地下の家族」の国際映画祭での受賞や、韓国ドラマの世界的な評価につながっているのです。

 日本でも以前、経済産業省が社会人を対象に、アメリカの映画大学院への留学支援を行ったことがありますが、結果的に継続できませんでした。その一番の理由は、修士号を取得して帰国しても就職先がなかったことです。和を重んじる日本の企業では、そういう先進的な人たちを登用して秩序が乱れることを嫌うわけです。日本のメディアエンターテインメントやITビジネスが遅れている大きな要因は、排他的な企業風土にありますので、社会構造の改革が不可欠だと思います。