日本におけるRPG人気の火付け役となった「ファイナルファンタジー」シリーズや「ドラゴンクエスト」シリーズなどの人気作品を持ち、ゲームをはじめとしたエンターテインメント分野で数々のヒット作を生み出し続けるスクウェア​・エニックス。同社では今、ブロックチェーン領域を最も重要なテーマと位置づけている。最大の特徴は、エンターテインメントに特化したNFT(­ Non-Fungible Token=代替不可能なトークン)技術の活用にある。目下取り組むブロックチェーン・NFTビジネスの位置づけや詳細、そして今後の展望について、同社でブロックチェーン・エンタテインメント事業部長を務める畑 圭輔氏に聞いた。

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コロナ禍を経て、人々の価値観や行動様式が変化する中、大きな変化を迫られたエンタメ&メディア業界。本特集では、XR・メタバース・NFT・5G・AI・ビッグデータなどの先端デジタル技術を駆使し、企業変革や事業創出に取り組むキーパーソンへのインタビューにより、エンタメ&メディアの未来を展望します。

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ブロックチェーン・NFTで遊びの幅を広げたい

──ゲームを中心としたエンターテインメント企業であるスクウェア・エニックスが、ブロックチェーン事業に進出した背景や目指す世界について教えてください。

畑 圭輔/スクウェア・エニックス ブロックチェーン・エンタテインメント事業部長

2012年にスクウェア・エニックスに入社し、スマートフォン向けゲーム or コンテンツ開発におけるテクニカルディレクターとして従事。その後、各プラットフォーム関連の交渉、対外折衝などを担う業務部に異動、部門長を経験し、同時に同社初のNFTビジネスとなるNFTデジタルシール「資産性ミリオンアーサー」を昨年2021年にプロデュースし、現在に至る。

畑圭輔氏(以下敬称略) 既に社長の松田洋祐が表明しているとおり、当社グループでは今後の重点投資領域として、AI、クラウド、ブロックチェーンを掲げています。そのなかでもブロックチェーン領域については、目下の最重要テーマとして位置づけており、投資及び事業開発を積極的に進めているところです。

 AI、クラウド、ブロックチェーンという現在のDXを支える3つのテクノロジーの中でも、ゲーム開発におけるAIやクラウドの活用というのは、テクノロジーの進化をどのようにゲーム体験に具現化するかが中心となります。これに対してブロックチェーンのユニークなところは、テクノロジーにとどまらず、分散型モデルという側面を持っている点です。

 一般的にゲーム開発会社が提供するゲーム体験というのは完成形のモデルが多く、ゲームを供給する側が律する範囲においてユーザーがゲーム体験を楽しむ形が主流とされてきました。これは中央集権型ゲームと言ってもいいでしょう。

 一方で、ブロックチェーンのゲームでは、多様な動機を持ったユーザーがゲームに参加して、それぞれが主体的にゲーム世界を構築し、コミュニティが形成されます。こちらはまさに分散型ゲームと言えますよね。

 今後は、こうした分散型ゲームのアイデアが拡大していくとともに、ユーザーに対してさまざまな形で分散型ゲームへの参加を促す動機付けの仕組みであるトークンエコノミーもまた普及していくことになるでしょう。それにより、さらに拡張性のある自律的世界が実現されたとすれば、今まで誰も見たことがなかった新しいタイプのゲームが創られるのではないか。そんな未来に向けて当社グループではブロックチェーン事業を展開しています。

──そうした目標に向けたブロックチェーン・エンターテインメント事業部のミッションとはどのようなものでしょうか。

畑氏 事業部の新設に当たって最初に代表の松田から提案されたのは「ブロックチェーンゲーム部」という名称だったのですが、ゲームにとらわれない多様なサービスを展開することを見据えて、私から「ブロックチェーン・エンターテインメント事業部」と命名させてもらいました。

 そのミッションというのは、前述したように、エンターテインメント企業としてブロックチェーン技術を活用した事業を手掛けていくことにあります。ただし、先行者も既に存在しますから全く同じことをやっても発展がありません。

 そこで、NFTを用いたエンターテインメントをわれわれの世界観で設計したらどうなるか、遊びの幅を広げていけるのではないか、という観点を特に重要視しています。

 どうしてもNFTを用いたサービスと言うと、少し前に世間で話題になったように、デジタルを用いることの意味そのものよりも、投機的な意味合いにばかりに目が向けられがちです。そうではなく、われわれとしてはNFTに関してもエンターテインメントに振り切って、NFTを保有していることの楽しさの創出や遊びの幅の拡大にフォーカスして多様な活動を進めています。

 さらにその一環として、ガイドラインを策定する業界団体や法整備を担う政府や関係省庁などにも企業の立場で協力しながら、まずわれわれが先行事例をつくってイニシアチブを発揮していこうと、さまざまな取り組みを進めているところです。