累計ダウンロード数は2400万回超。驚異的な人気を誇る、マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」。その編集長を務める細野修平氏は、電子書籍がまだ一般的ではなかった2012年から電子書籍販売に携わり、デジタルの世界におけるマンガの可能性を切り開いてきた。そんな細野氏に、マンガをデジタル化する価値、そして2022年の「新語・流行語大賞」にもノミネートされ社会現象を引き起こした「少年ジャンプ+」発の人気作品『SPY×FAMILY』の誕生秘話など、余すところなく聞いた。

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コロナ禍を経て、人々の価値観や行動様式が変化する中、大きな変化を迫られたエンタメ&メディア業界。本特集では、XR・メタバース・NFT・5G・AI・ビッグデータなどの先端デジタル技術を駆使し、企業変革や事業創出に取り組むキーパーソンへのインタビューにより、エンタメ&メディアの未来を展望します。

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「少年ジャンプ+」はいかにして生まれたのか

――マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」を立ち上げた経緯を教えてください。

細野 修平/集英社 「少年ジャンプ+」編集長

集英社に2000年入社。「月刊少年ジャンプ」でマンガ編集者としてのキャリアを始める。 以降、「ジャンプスクエア」を経て、2012年から「週刊少年ジャンプ」に異動。そのデジタル担当として、「ジャンプLIVE」の立ち上げを経て、マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」を創刊。2017年から同誌の編集長を務める。

細野修平氏(以下敬称略) 2012年に、集英社が「ジャンプBOOKストア!」という電子書籍販売アプリをローンチしました。コミックスの電子版を販売するというものですが、当時はまだ自社アプリで電子書籍を販売している出版社はなく、Kindleも上陸していないという状況だったので、最初は不安もありました。ところが実際にサービスを開始してみると、デジタル書籍にも読者がいるのだという手応えを感じたのです。

 それなら、デジタルでマンガ雑誌を作ってみようということで立ち上げたのが「ジャンプLIVE」というアプリです。2013年の夏と冬の2回、紙の雑誌の増刊号のような形でマンガをリリースしたほか、ミニアニメやミニゲーム、YouTube企画の動画などさまざまな課金システムを入れ込んだのですが、結果的にマンガ以外のものはあまり受け入れられませんでした。やはり“ジャンプ”で求められているのはマンガなのだなと感じたことから、2014年9月に「週刊少年ジャンプ」の電子版とオリジナル作品を配信するアプリ「少年ジャンプ+」をローンチしました。

人気マンガが読めるマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」。累計ダウンロード数は2400万回を超えている(2023年3月現在)
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――「少年ジャンプ+」ならではの特徴というのは。

細野 「少年ジャンプ+」をマンガ誌アプリと位置づけているように、われわれは“雑誌”というのを重視しています。漫画誌には初出のマンガ作品が掲載されているのが特徴の1つですが、「少年ジャンプ+」もここでしか読めない作品を中心に掲載しています。また、連載中のオリジナル連載作品に限り、初回全話無料で読めるというのも大きな特徴ですね。

――「少年ジャンプ+」のプロジェクトとして、誰でもマンガをWeb上で投稿・公開できるサービス「ジャンプルーキー!」も重要な役割を担っていますよね。

細野 「ジャンプルーキー!」はわれわれ編集者からすると、新しい漫画家さんを発掘できる場でもあります。こちらから声をかけるケース以外に漫画賞も多く開催していて、月例的な賞や、季節ごとに募集する「少年ジャンプ+漫画賞」などもあります。最近だと、編集部のネームチェックを経ずに連載できる「インディーズ連載」が盛り上がっています。毎月開催される「連載争奪ランキング」で人気を得ると連載枠を獲得できるのですが、開始以来途切れたことはないほどの人気です。最近ではトルコの作家さんの投稿作が連載になるなど、注目度の高さを実感しています。