約20社のグループ会社を有し、アーティストや音楽をはじめとする総合エンターテインメントカンパニーとして多角的なビジネスを展開する、ソニー・ミュージックエンタテインメント。コロナ禍によるデジタル化の加速に伴い、エンターテインメント業界にはどんな変化が訪れたのか。エンタメ業界におけるデジタル&データ活用はどこまで進んでいるのか。アーティストのプロモーション活動を行うグループ会社ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッドで取締役執行役員を務め、グループ全体のデジタルイノベーショングループの統括も兼ねる北山智之氏に聞いた。

コロナ禍による消費者行動の変化とは?

――コロナ禍によってエンターテインメント業界は大きな打撃を受けたかと思いますが、コロナ禍前後での変化をどう捉えていらっしゃいますか。

北山 智之/ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド 取締役執行役員、ソニー・ミュージックエンタテインメント デジタルイノベーショングループ 代表

1994年にソニーミュージックグループ入社。音楽パッケージの営業から販売推進部、経営企画を経てレコードレーベルの経営管理業務を担当。2018年にソニー・ミュージックマーケティングの代表取締役を経て、2021年より現職。ソニーミュージックグループにおけるDX推進を担当し、また、主に音楽事業におけるマーケティング全般を担う。
-----
好きな言葉:「正義」
注目の人物:田中仁氏(JINS)、星野佳路氏(星野リゾート)
お薦めの書籍:『FACTFULNESS 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(ハンス・ロスリングほか著)、『世界標準の経営理論』(入山章栄著)

北山智之氏(以下敬称略) 日本レコード協会の公式の統計データ(下図)を見ると、パッケージのビジネスはコロナ禍の影響を大きく受けたのですが、配信のビジネスはどんどん伸びていったことが分かります。中でも大きく拡大したのはストリーミングで、アーティストも含めて意識がデジタルへと傾倒していったと言えます。

 ところが、2021年になるとパッケージのビジネスは回復しており、トータルでは市場が伸びているんです。欧米では非常にニッチなものとなっているのに比べて、日本は音楽ソフトの売り上げが2000億円弱あり、まだまだパッケージのビジネスが大きな割合を占めています。マーケットの中身を見ると、パッケージの比重が大きいコンテンツと、デジタルの比重が大きいコンテンツに分かれることが分かります。

 パッケージの比率が高いのは、ファンエンゲージメントの高いアーティストです。アイドルグループやK-POPなどですね。逆に、ストリーミングでどんどん回転していくアーティスト(IP[Intellectual Property=知的財産])は、配信の売り上げが大きくなります。マーケティングの手法がまったく異なりますので、パッケージとストリーミングどちらのビジネスも大事にしていきながら、by contentsで戦略を考えることが必要です。

日本レコード協会発表の過去10年間における、生産実績と音楽配信売上実績の推移
拡大画像表示

――音楽に対する価値観や接し方において、消費者側の変化を感じる部分はありますか。

北山 非常に2極化していますね。いわゆる“推し”のアーティストに対する消費欲は、今まで以上に旺盛になっているように感じます。昨年、あるアーティストの周年記念BOXを発売した際には、お客さまから「こんなに豪華な内容で、この価格は安すぎる」というお声をいただいたりしました。その消費欲に驚かされると同時に、非常に丁寧に取り組んでいかなければいけないところだと実感しました。

 一方で、ユーザーの趣向性の広がりを感じることも多いですね。例えば、「昨年のヒット曲は何ですか」という質問があったとして、恐らくその回答はかなりバラバラですよね。それぐらい世の中におけるヒット曲の定義がどんどん変わっていると言えます。ここ数年は、TikTokでバズった楽曲がヒットするというのが定番になっていますが、バズるのは新譜に限らないんですよね。

 昨年、nobodyknows+の「ココロオドル」という20年近く前の楽曲がリバイバルヒットしました。「THE FIRST TAKE」というYouTubeチャンネルで取り上げられたのが直接のきっかけではありますが、実は、その前に小さなバズが起こっていたのです。というのも、「ココロオドル」は夏の定番ソングなので、毎年、夏になると非常に多くのユーザーのプレイリストに入って再生されるというデータがありました。そこでわれわれは、旧譜であるこの曲に対してあえてマーケティングを行ってみたのです。その結果、非常に大きなヒットにつながりました。

 当社のビジネスモデルはBtoBtoCですので、われわれを取り巻くステークホルダーにさまざまなサービスを提供していくことが、結果的に売り上げアップにつながります。そのためには、まずアーティストやクリエイターに選ばれなければ始まらないので、ありとあらゆるアーティストの要求に応えられる魅力的なコンテンツホルダーであり続けなければいけない。これは、常に心がけていることですね。