三菱UFJ信託銀行等8社は2023年9月11日、ブロックチェーン(分散型台帳)を基盤としたデジタル証券やデジタル通貨の発行基盤を提供する新会社「Progmat(プログマ)」を10月2日に設立すると発表した。大きな特色は、同社には三菱UFJ信託銀行をはじめ、みずほ信託銀行、三井住友信託銀行、三井住友フィナンシャルグループといった大手金融機関が系列の枠を超えて資本参加していることだ。国内デジタルアセット市場での共通基盤となるだけでなく、グローバル市場でも標準規格となることを目指すという。ProgmatのCEOに就任するのは三菱UFJ信託銀行出身の齊藤達哉氏だ。日本発の前例のない取り組みが生まれるまでにはどのような苦労、そして工夫があったのか。齊藤氏に取材した。

シリーズ「フォーカス 変革の舞台裏 ~Progmat(プログマ)編~」
■第1回 ついに始動、世界を目指す日本発デジタルアセットプラットフォームProgmat(本稿)
第2回 「法律は敵ではなく味方」、既存の金融を新たな世界に導くProgmatの挑戦
第3回 大手金融機関の系列を超えた前代未聞のプロジェクトはいかにして実現したのか
第4回 三井物産グループがProgmatとの協業で拓く個人向け資産運用サービスの新市場


<フォロー機能のご案内>
無料会員に登録すれば、本ページの右上にあるフォローボタンから、シリーズ「フォーカス 変革の舞台裏」をフォローできます。
●フォローしたシリーズの記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

業界を横断する大手企業が資本参加

 10月2日に設立される新会社・Progmat, inc.の設立発表会の会場には、新聞・雑誌のほか、テレビ局など多くの報道関係者が集まっていた。

 メンバー数わずか24名のスタートアップ企業が注目される理由は、その設立趣旨にある。Progmatの代表取締役 Founder & CEOに就任予定の齊藤達哉氏は発表会の檀上で「デジタルアセット市場参加者の圧倒的な利便性向上を実現するインフラを共創し標準化する」と語った。

Progmat,inc 代表取締役 Founder & CEOの齊藤達哉氏(撮影:宮崎訓幸)

 株主構成は三菱UFJ信託銀行のほかに、みずほ信託銀行、三井住友信託銀行、三井住友フィナンシャルグループがそれぞれ出資している。ほかに、SBI PTSホールディングス、JPX総研、NTTデータ、Datachainの4社も資本参加する。三菱UFJ信託銀行は筆頭株主ではあるが、出資比率を49.0%として経営権を掌握せず、今後は第三者割当などによりさらに出資比率を引き下げる予定だという。大手金融機関をはじめ、業界の枠組みを超える前例のない取り組みがスタートしようとしている。

9月11日の設立発表会には出資元各社がそろった。
拡大画像表示

 発表会では、社名と同名のデジタルアセットプラットフォーム「Progmat」が提供するインフラ機能群についても説明された。プロダクトとしては大きく3つある。デジタル証券の「セキュリティトークン(ST)」、会員証や優待券などに活用できる「ユーティリティトークン(UT)、そして、デジタル通貨の「ステーブルコイン(SC)」だ。

 Japan Innovation Reviewでは会見に先立ち、齊藤氏に独占インタビューを行った。齊藤氏はそこで業界を横断するインフラの必要性について、以下のように詳しく語っている。

「競争領域と非競争領域の話になります。例えば、ファンドの運用会社の競争領域は運用の巧拙です。一方で、事務オペレーションは競争領域ではない。競争領域ではない部分は、どこかにまとめてしまったほうがハッピーです。デジタルアセットの分野でいえば、金融機関が競争力を発揮するのは商品開発力です。デジタル証券の商品性としては不動産、航空機・船舶、スタートアップへの投資などいろいろあると思いますが、そこでいかに、いい商品を選択肢として提供できるかが競争領域であって、それを可能にするための基盤は非競争領域なのです。むしろ各社が基盤を個別最適でバラバラに作ってしまうと全体としての効率が悪く、土台となる市場が育ちません」

 金融機関の系列を超えた標準規格は、法人決済などで利用する企業にもメリットをもたらすだろう。特に貿易などでは即時決済の活用による決済業務の大幅な効率化が期待される。