2024年1月にNISAが全面的に見直され、8月からは金融経済教育推進機構(J-FLEC)が本格的に稼働している。さらに12月にはiDeCo(個人型確定拠出年金)の制度改正が実施される予定だ。官民挙げて「貯蓄から投資へ」の流れを醸成する中、企業向け投融資の流れにはどのような変化が生じてくるのか。
一般社団法人金融財政事情研究会が毎月発刊しているファイナンシャルプランナー向け雑誌『KINZAI Financial Plan』の編集長、西塚剛氏に話を聞いた。
インフレと年金財政悪化で求められる、生活防衛のための「投資」
――新NISAのスタート、金融経済教育推進機構(J-FLEC)の立ち上げなど国民の資産形成をサポートする動きが広がっています。今度こそ「貯蓄から投資へ」の動きは実現するのでしょうか。
西塚剛氏(以下・敬称略) 8月1日に日本銀行が公表した「経済・物価情勢の展望」によると、「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2024年度に2%台半ばとなった後、2025年度および2026年度は、概ね2%程度で推移すると予想される」「中長期的な予想物価上昇率をみると、緩やかに上昇している」とされています。バブル崩壊以降、日本経済を長らく苦しめてきたデフレ経済は終わり、インフレ経済へと移行しつつあります。
一方、日銀は7月31日の金融政策決定会合で、 政策金利を0.25%に引き上げると決めましたが、一般的な満期10年の定期預金でも利率は年0.30%程度です。2%の物価上昇率が続くと、預金したお金の価値は実質的に目減りします。そのため、生活防衛的に物価上昇率を上回るリターンが期待できる投資に目を向ける必要性が高まっています。
それに加えて、政府がNISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)の制度見直し、J-FLECの立ち上げなど、個人の投資をサポートする制度を次々に打ち出している理由の1つとして、少子化によって年金財政が厳しくなっていることが挙げられるのではないでしょうか。
先般、政府が5年に一度の「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」を発表しましたが、現役世代の平均手取り収入に対する年金額の割合を示す「所得代替率」は、成長型経済移行・継続ケースで、2024年度が61.2%であるのに対し、2037年度には57.6%まで低下する見通しです。
過去30年投影ケースの場合、2057年度には50.4%まで低下する見込みですが、インフレによる生活防衛と、公的年金の財政問題という2つの点で、「貯蓄から投資へ」の動きが不可欠になりつつあるというのが、現在の基本認識です。
――「貯蓄から投資へ」の動きは顕在化してきているのでしょうか。
西塚 今年7月に、「NISA口座の利用状況調査」が発表されました。それによると2024年3月末時点のNISA口座数は2322万7848口座です。旧NISAにおける2023年12月末時点の口座数は2136万56口座であり、たった3カ月で200万近く口座数が増えました。実に成人の5人に1人が口座を開設している計算になります。
年齢別に見ても、これまであまり投資に関心を示さなかった20代、30代の利用者が全体の28.6%を占めていますから、NISAの制度見直しを機に、幅広い年齢層で「貯蓄から投資へ」の動きが顕在化してきたと考えられます。
また、2024年8月からはJ-FLECが本格稼働しています。J-FLEC は2024年4月に設立された認可法人で、金融広報中央委員会、全国銀行協会、日本証券業協会が発起人となり、幅広い年齢層に向けて、国民おのおののニーズに応えた金融経済教育の機会を、官民一体となって提供しています。
今後は講師派遣やイベント・セミナーの開催、個別相談などを、J-FLEC認定アドバイザーと共に展開していく予定です。こうした活動によって、「貯蓄から投資へ」の流れがいよいよ定着していくものと考えています。