常陽銀行、足利銀行の地銀2行を中核としためぶきフィナンシャルグループ(以下、めぶきFG)は、地銀トップクラスの資産規模を持ち、首都圏からの近さや産業基盤の多様性など潜在力の高さにも注目が集まる。前回は、同社の地域に根差した成長戦略、新規事業などについて聞いた。本稿では、地域の企業と生活者を支えるビジョンを掲げる同社の人材戦略と、リテール戦略を秋野哲也社長に聞いていく。
シリーズ「地域金融機関の今、未来」ラインアップ
■【前編】茨城と栃木の産業特性のポテンシャルを最大に引き出す、めぶきFGの戦略とは?
■【後編】めぶきFGトップに聞く、地域金融機関ならではの店舗網のあり方とデジタル戦略(本稿)
社外との交流を通じて、多様性のある人材を育てる
――御社はコンサルティング、地域商社など、地域の企業を支援する多数のビジネスを始めています。従来の銀行業以外の事業を進めるためには、それを担う人にも多様な能力が求められます。人材の獲得や育成の取り組みをお聞かせください。
秋野哲也氏(以下敬称略) 人材については多角的な施策を実施しています。まず、これからの業務のベースにはデジタルの基礎知識が不可欠です。そのため、従業員のデジタルリテラシー向上に向けて、経済産業省の認定資格「ITパスポート」を全社員に取得してもらいたいと考えています。
取り組みを開始しておよそ1年で、全社員6000名のうち半数以上の約3700名が取得しました。全員取得に向けて取り組みを強化する一方、ITパスポート取得者はさらに上級のITコーディネーターへのステップアップを進めています。
また、顧客企業にアドバイスするコンサルティング人材の獲得にも力を入れており、現在グループで400名以上を確保するところまできています。かなりハイスピードで進んでいると自己評価していますが、成果が確認できるのはこれからですので、気を抜かず人材強化に取り組んでいきます。
人材の取り組みを通じて思うのは、やはり銀行に変革を起こすのは従業員一人一人の力だということです。
常陽銀行では2020年に企業の課題解決を専門的に支援するコンサルティング営業部を新設し、当初から100名規模の組織で企業への営業を開始しました。3年たった今、この組織を見ていると、人は新しい役割を与えられ、そこで集中して取り組むと大きく成長する、ということがよくわかります。しかも、外部のコンサルティングファームやM&Aの専門会社と協業して働いているため、スキルやコミュニケーション力も飛躍的に向上しています。
また当社では、社内外へのトレーニー派遣や、外部企業からの出向者の受け入れも積極的に行っています。派遣先はメガバンクをはじめ、コンサルティングファーム、商社、ITベンダーなど多岐にわたります。外部で数年学んだ後で呼び戻し、社内の専門部隊の中核人材となっていくキャリア形成を進めています。
銀行業界では、トレーニー派遣の歴史は古いのですが、派遣先は大手銀行や証券など金融系が中心でした。当社では、非金融業への派遣を7年ほど前から始めましたが、地銀の中では早いほうだったと思います。今後は、さらに派遣人員、派遣先を増やして、幅広い知見を取り込んでいく計画です。
現在、外部との人材交流で直接行き来する人が100名ほどいますが、その周りに予備軍を配置して、300名ぐらいの人員が流動的に外部とネットワークを持って、育っていくことをイメージしています。
目下、人材育成で力を入れている分野は、先ほどお話しした企業向けの経営コンサルタントに加えて、富裕層向けのコンサルティング営業担当者、そして顧客分析ができるデータサイエンティストの3種類です。
もちろん、平行して外部からの専門人材の獲得にも力を入れており、育成と採用の両面で人材強化を進めています。当社の目指す人材像は、地域のお客さまを支援するために、課題を見つけ、解決策を提示できる「目利き」の役割を担えることです。
もし、自分たちの力では難しい場合は、そのお客さまに最適なパートナーを知っている、あるいは見つけられる能力を持たなければいけません。お客さまのビジネスを長期にわたって安心して任せられるパートナーを紹介できることも、銀行の役目だと思っています。
個人的には、これからの地銀は地域の総合商社のような役割を持つべきだと考えています。独立した地域商社は、金融機能を持っていません。しかし当社は銀行なので、商社機能に加えて、必要であればファイナンスを付けた支援ができます。そこが大きな強みになると考えています。