地方銀行における金融DXの先進企業と知られるのが北國フィナンシャルホールディングスだ。2021年5月には国内で初めてパブリッククラウドでのフルバンキングシステムを稼働させ注目を集めた。このシステム改革をはじめ同社のDXの取り組みは20年以上にも及ぶ。長期にわたる大きな戦略を描きながら、数多くの微修正を積み重ねてきたという同社の代表取締役社長の杖村修司氏に、デジタルを起点とした全社改革の考え方と進め方について聞いた。
基幹系システムのクラウド化を決断した理由とは
――2021年5月に銀行勘定系システムをマイクロソフトのパブリッククラウドに移行し、フルバンキングシステムのパブリック環境での稼働は国内初として大きな話題となりました。勘定系のクラウド化を決断した背景について伺います。
杖村修司氏(以下敬称略) 2016~2017年頃には、マイクロソフトさんから今後はAIと量子コンピューターに力を入れるという話を聞いていました。また、5年後、10年後を考えると、基幹系システムをパブリッククラウドに上げて、そこのPCパワーとデータ量、アルゴリズムを含めてAIを融合し、うまく使いながらやっていくのがビジネスにとって一番いいと考えたことが大きな理由です。
日本ではパブッククラウドに対してネガティブなイメージも強く、セキュリティやパワー不足を懸念される方も多いのですが、決してそうではありません。パブリッククラウド自体のセキュリティはものすごく高くて、オンプレミスの比ではないと言われます。国家予算と同規模の予算を使いながら、3000~4000人もの人員が関わっています。
なぜ、そんな勘違いが起こるのかというと、パブリッククラウドを使うために必要なネットワークだとか、利用者側のセキュリティがごちゃ混ぜになっているからです。最近言われているゼロトラストの手法を取り入れれば、それが一番いいセキュリティ対策だと思います。
――システム改革に着手する以前から、クラウド化によるAI活用を見据えていたわけですか。
杖村 そうです。AIを使って生産性を飛躍的に向上させることが基本ですから、AIにできることはどんどんそっちに任せて、人にしかできないことをやっていく。そう考えると、オンプレミスか、パブリッククラウドか、プライベートクラウドか、答えは自ずと決まってきます。
――システム開発にあたっては、内製化にもこだわってきました。
杖村 日本で内製化というと意外に思われますが、世界の潮流と見ると、日本だけがおかしな状況です。100%内製化して、社外の人に手伝ってもらわないというのではなくて、コア人材は全部内製化して、社外のいろいろな方たちとも一緒にやっていきます。システムが分かる人が誰もいなくて、社外に丸投げという状態だけは避けたいと思いました。
――クラウドファーストのシステム改革をはじめ、北國フィナンシャルホールディングスは金融DXの先進企業として知られます。DXの取り組みは20年前に遡るそうですが、そもそもどのような問題意識や環境認識があったのでしょうか。
杖村 実は2000年にシステムの開発や運用を全てアウトソーシングしたことがあります。アウトソースすることによって、銀行はコア業務に人材を投入できます。しかも、プロフェッショナルにアウトソースするから開発の品質も高くなるし、スピードも上がる。何の問題もなく安定した運用ができる。そんな触れ込みだったのですが、2年経ったところで「これは違うね」ということで、順番に戻していきました。
――何が違ったのですか。
杖村 やはり銀行の業務を分かっていないとシステムはできないということと、アウトソースするとシステムに対する知見が組織全体で低下することが大きかったからです。ただ、よくよく考えると、ビジネスには何をおいてもシステムが付いて回るのということに気付けたのは良かったと思います。当時、思い切ってアウトソースに振り切ったからこそ分かったことです。