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肥後銀行は、地方においていち早くDXに取り組み始めた企業の1つである。そのけん引役となったのが、同行でCIO(最高情報責任者)を務め、2018年に頭取に就任した笠原慶久氏だ。笠原氏は一貫してDXを最重要課題の1つに掲げており、2021年11月には九州の地銀として初めて経済産業省の「DX認定事業者」の認定も取得。今後、ますますDXに力を入れていくと明言する。肥後銀行がDXを推進する背景や、将来的に目指すゴールなどについて話を聞いた。
ライフスタイルの変化、規制緩和、フィンテックの台頭など、金融機関の経営環境は激変の一途。今やDXによる変革は待ったなしです。金融業界におけるDXキーパーソンへのインタビューにより、DX戦略の全体像から、データ活用、CX、カルチャー変革、デジタル人材育成まで、金融DXの最新の事例を取り上げます。
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DXが人口減少や過疎化、距離などあらゆる問題を一掃する
――「DX認定事業者」の認定取得は九州の地方銀行としては初です。その狙いや経緯についてお伺いします。
笠原 発端は、2018年の勘定系システムの更改です。レガシーシステムといわれるようなメインフレームのシステムを、サーバーを使った先進的なオープンシステムに全面刷新しました。
当初、私はCIOとしてこのプロジェクトにかかわり、同年6月に頭取に就任しています。プロジェクト自体は問題なく進行したものの、取り組みの過程で、DXに関する体制を構築することがいかに重要かといった問題意識を強く持つようになりました。プロジェクトのコンサルティングを依頼していたPwCあらた有限責任監査法人の責任者ともさまざまな議論を交わし、「銀行のDXがどうあるべきか」「(特に地銀においては)中小企業のDXがどうあるべきか」というテーマについて真剣に考えるようになっていったのです。
そうした中で、私が頭取に就任した直後の9月、経済産業省からDXレポートが発表されました。偶然にも当行は、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があるとされる「2025年の崖」問題の解決に向けた取り組みを一足先に進める企業の1つと認識されるようになったのです。都市部の企業や大企業ではすでにDXに取り組んでいた企業がいくつもあったかもしれませんが、地方の企業としては先進的であったようです。
一連の流れの中で、PwCあらた有限責任監査法人が、中小企業におけるDX推進の仕組み作りをする取り組みに協力するといったことも経験しました。今では中小企業がDXを進めるにあたって地方銀行の担うべき役割は非常に大きいと認識しています。われわれが地域のDXを引っ張っていこうというわけですから、率先して「DX認定事業者」認定取得を目指したのは必然であったと言えます。
――「地方にこそDXが必要だ」と常々言われています。その理由をご説明いただけますか。
笠原 DX投資を行うと、まず進むのが業務の効率化でしょう。もし社内に人材が余っているような状態のときにDXを進めたら、失業者が出る恐れがあり、変革への抵抗感も強くなるかもしれません。ところが地方では今、人口減少や過疎化が大きな問題となっています。経済規模を維持するためには、劇的に生産性を上げる必要があります。失業を発生させずに思い切った変革が進められる状況にあるわけですから、むしろチャンスなのです。
また、これまで地方の企業においては、都市部からの「距離」の問題がデメリットとしてついて回るものでした。この問題も、オンライン会議などをはじめとするデジタルの活用によって大幅に軽減できる可能性が出てきています。都市部の企業でなければ手掛けられなかったビジネスに、地方からもアクセスできるとなれば、これもかつてないチャンスと言えます。
一方で、地方ではDXに対する意識が低いのが課題です。都市部の企業と比べて最新の情報に触れる機会が少ないため、意識改革や投資が進みにくい傾向があることは否めません。私のような立場の人間が、DXが大きなチャンスであることを声高に伝えていく必要があると思っています。機会あるごとにお話ししてきたことで、熊本の企業においてはすでに問題意識が高まってきています。根気よく丁寧に説明していけば、地方の未来は変えられるのではないかと感じています。