茨城県の常陽銀行、栃木県の足利銀行という地域のNo.1地銀同士が経営統合して誕生しためぶきフィナンシャルグループ。東京に近い「地の利」と、製造、農業、観光などの多様な産業特性を生かし、地域密着の総合金融サービス業を目指している。グループを率いる秋野哲也社長が描く、2030年の地域金融サービスの在り方とは。
■【前編】茨城と栃木の産業特性のポテンシャルを最大に引き出す、めぶきFGの戦略とは?(本稿)
■【後編】めぶきFGトップに聞く、地域金融機関ならではの店舗網のあり方とデジタル戦略
茨城と栃木はバランスの取れた産業構造
――めぶきフィナンシャルグループ(以下・めぶきFG)が誕生して7年となりました。そもそもめぶきFGはどういう経緯で誕生したのでしょうか。
秋野哲也氏(以下敬称略) めぶきFGは、茨城に本店を置く常陽銀行と、栃木県に本店を置く足利銀行が2016年に経営統合した金融グループです。従業員数は合計約6000名、パート従業員を含めると約9000名を抱え、総資産は2023年3月末で約21兆円の規模です。茨城、栃木、首都圏を中心に318店舗を有しており、北関東で大きなプレゼンスがあります。
常陽銀行は、1935年に水戸の常磐銀行と土浦の五十銀行が合併して誕生しました。以来88年の歴史があります。さらに源流をたどると、祖業は1873年に設立された会社です。日本で渋沢栄一が銀行を作って今年で150周年ですが、それと同じぐらい、この地で仕事をしていることになります。
一方の足利銀行も、1895年創業、128年の歴史を持っています。これはどの地域でも同様の流れがあると思いますが、両行はそれぞれ、茨城、栃木の銀行が、資本を集約する形で発展してきました。
――現在のめぶきFGを取り巻く経営環境を、どう見ていますか。
秋野 ご存じのように、日銀の金融政策は10年以上にわたり超低金利、マイナス金利政策を続けており、金融緩和が続いています。銀行の本業は、本来は預かった預金に利息を支払いながら、必要なかたに融資をさせていただき、金利収入を得ることです。ところが金利が付かないため、この鞘(さや)がほとんど取れません。預金と融資のビジネスでは利益を出しにくい状況が続いているなかで、日本の銀行界全体は経営的に厳しい環境に置かれています。
加えて、顧客基盤である地方経済については少子高齢化で人口が減少し、同時に産業構造もスリム化していく傾向が続いています。
しかし、全く悲観はしていません。当社が拠点とする茨城、栃木には、産業構造が変化するなかでも、事業の拠点として選んでいただけるポテンシャルがあります。
その理由を説明します。まず首都圏から近く、茨城県は土地の3分の2を関東平野が占めており広い土地の確保が容易です。栃木も同様で、工場などの企業誘致件数は両県とも国内トップクラスとなっています。
栃木県には自動車メーカー、航空機エンジンのメーカーなどが進出しており、茨城県には石油化学コンビナート、素材、鉄鋼などの企業が集積しています。またつくばには企業、大学の研究機関が集まる研究学園都市が形成されています。
茨城は水が豊富で、工場用水を安く提供できる面でも立地しやすい環境です。工場の国内回帰の動きもあるなかで、当地域も有力な候補として考えていただけると思っています。最近の例では、日産自動車向けなどのEV用電池を製造する中国のエンビジョンが茨城に国内最大級の工場を建設中で、2024年春に量産を開始する予定です。また、化粧品の米エスティローダーも茨城県内に工場を建設しています。
東京からの交通インフラも充実しており、常磐道、北関東道、圏央道の道路網、港湾、茨城空港の空路も確保されています。そのメリットを生かした物流拠点も数多く設置されています。
また、茨城県は農業、漁業といった第1次産業が盛んなことでも知られています。農作物の生産額で3位に入っており、漁獲高は2位で、魚の加工業も盛んです。一方、栃木には観光があります。世界遺産の日光をはじめ、那須などの観光地には世界中から観光客が訪れています。
このように、2県を合わせると、産業構造のバランスが非常にいいことがわかります。この多様性が1つの地域の中に集約されていることが大きな強みです。