トモニホールディングスの中村武社長が、2018年の社長就任後に推進してきた変革の詳細などを語った前編。後編では、傘下の徳島大正銀行、香川銀行の2行体制を今後も維持していくこと、そして2023年に注目を集めた公募増資の背景が語られる。この2つの論点の鍵を握るのは、地域金融機関としての「顧客最優先」の姿勢だ。
“土着スタイル”の営業で東京を攻める
――前編では、トモニホールディングスは中小企業に対して強い金融グループという説明がありました。そもそも、なぜ中小企業に対して強みを発揮できるのでしょうか。
中村武氏(以下敬称略) 当社には、地域のお客さまに密着する「土着」ともいえる企業文化があります。営業店の行員はもちろん、役員がお客さまに密着して直接商談することも、特別ではありません。
一番分かりやすいのは、東京での取り組みです。当社は徳島、香川、そして大阪で地域密着の営業をしつつ、国内最大の市場である東京マーケットの取り組みも強化しています。東京は、徳島と香川を合算した域内総生産の約16倍の巨大市場であり、さまざまな金融ニーズが存在します。
東京市場は、当然メガバンクが強いわけですが、大きな銀行は、特に中小の取引先に対しては渉外担当の方が担当する場合が多いと思います。それに対して当社は役員、場合によっては頭取が、東京に出向いたときに直接取引先にお邪魔しています。そうするとお客さまの方でも、かなり深いニーズまでお話をしていただけることがあります。そこを丁寧に拾っていくことで、少しずつですが市場を開拓しています。
――幹部が訪問するだけで、東京の会社が地銀の口座を開いてくれるものなのですか。
中村 いや(笑)、そう簡単ではないですね。もちろん事前に、東京地域の支店スタッフが準備を整えると思います。
香川銀行の現在の頭取である山田径男(みちお)がかつて常務だった時代の話です。彼が毎月東京へ出張する際に、支店長に対して、新規の訪問先を各支店の合計で8カ所用意せよという指示を出していたそうです。
支店長たちも、いきなり本店の幹部を行かせるわけにはいかないので、必死になって事前に回る先の地ならしを進めます。そうやってトップ営業を仕掛けると、お客さまの本気度も高まり、8カ所全てではなくても、いくつかお取引をいただける事例は実際に出てくるのです。
ウエット過ぎると感じるかもしれません。しかし、先ほど申し上げたとおり、東京には多種多様なニーズが存在します。その中には、ドライな取引だけでは拾い切れない、土着型のビジネススタイルを好まれるお客さまも、少なからずいらっしゃるということです。