「東京圏の地銀」として地域の中堅企業の戦略パートナーとしての存在感を増している東京きらぼしフィナンシャルグループ(以下・東京きらぼしFG)。グループの成長を支えている戦略的人員配置をはじめ、同社の人材は「きらぼしびと」という行動基準に基づいて活動している。その言葉に込めた思いや求める人材像、さらにはデジタルバンク「UI銀行」を中核に展開するデジタル戦略の狙いやグループの未来像を聞いた。
■【前編】東京きらぼしFGが競合ひしめく東京マーケットで見出した商機と勝ち筋
■【後編】「UI銀行」を核に、東京きらぼしFGのデジタル戦略の狙いと成長へのシナリオ(本稿)
「旧行意識」解消の取り組みが、多様性の時代に生かされる
――前回、外部人材の採用が増えているとうかがいました。社内の人材と外部人材がチームを組んで働く際に、注意していることはありますか。
渡邊壽信氏(以下敬称略) 人材をどう融和させていくかは、大きな課題です。当社はもともと、特徴の異なる3つの銀行が合併を機に誕生した金融グループです。合併当初、職員の“旧行意識”をなくし、融和を図ることは大きな経営課題でした。
合併に合わせて、フィロソフィーを作ろうという意見もありました。しかし、合併後の形が定まらない状態でフィロソフィーを作っても、標語だけの飾り物になりかねないという思いがあり、あえて作らずに進めてきました。
その代わりに、「われわれは課題があったから合併した」ということを改めて問い直し、全ての職員が、それまでの旧行の文化、仕事への取り組み方を捨て、新しい文化を作っていこうと呼びかけました。合併当初の3年間は、旧来の踏襲ではなく、新しいことにチャレンジするということを職員に求めてきました。
そのときに職員に意識させたのは「チャレンジ」「スピード」「リスクテイク」の3点です。前回お話ししたメイン化や事業性ファイナンスも含め、この3つに取り組まなければ、東京圏という競争の激しいマーケットでは生き残れないということを意識させました。
この3年間の挑戦によって、銀行の本業利益で黒字を出せるところまで持ってきました。また、この取り組みがあったおかげで、現在の当社は新しい価値観や多様な働き方の人材が合流しても、スムーズに受け入れることができていると思います。
そして、次の3年間を考える2021年度からの中期経営計画では、ステップアップを図るため、3年後の最終利益200億円を目指す目標を掲げました。さらに、このタイミングで「きらぼしびと」というグループフィロソフィーを作りました。
自立した個人の活躍が、組織を強くし、顧客を喜ばせる
――「きらぼしびと」に込めた思いをお聞かせください。
渡邊 社名である「きらぼし」という言葉には、地域のお客さまを光り輝かせるということも含め、さまざまな意味を込めています。
では「きらぼしびと」とはどんな人かというと、私は、「組織の中で、自分として何ができるかを、自分事として考える人」だと思っています。そういう人材をつくり、増やしていくことが当社の目指す人材育成のビジョンです。
人間はどうしても楽なほうへ流れていきますが、自分ががんばることで組織がよくなり、顧客が喜ぶことで企業が発展し、最終的に自分たちの生活水準もよくなります。職員に、こういう循環を意識してもらうにはどうすればいいかを、合併以降ずっと考え、取り組んできました。
当社が掲げている「きらぼしフィロソフィー」では、「高い志をもつひと」「『どうしたら出来るのか』を常に考えるひと」「結果にコミットし、果敢に挑戦し続けるひと」の3つの行動指針を定めています。
当社は職員に対してこの行動指針の実践をサポートすることで、職員の生活向上を実現し、キャリア育成を促進します。経営側も、人件費をコストと考えず、大切な資産であると捉えて投資するという意識改革を行いました。特に本年度から、当社は人的資本経営に大きくかじを切っています。これはきらぼしフィロソフィーの発展形だと捉えています。
人的資本経営は、まだ始めたばかりです。まずは社内向けに、自分たちの存在意義をあらためて問い直すところから始めていきたいと思っています。それが浸透してから、次に地域のかたに向けた情報発信をしていきたいと思います。きらぼしびとの考え方は、地域を輝かせることが最終目標です。