24時間365日、時間や場所を気にせず、かつ、非対面で金融取引を完結させたいというニーズは確実に高まっている。そんな潮流の中で、非対面プラットフォームの構築にチャレンジしているのが、富山県富山市に本店を置く富山第一銀行だ。新たな顧客体験の提供を目指して、地方銀行は今、どのような課題意識を持ちながら試行錯誤を重ねているのか。同行で取締役 事務統括システム部長 兼 ダイレクトバンキング部長を務める長谷聡氏に聞いた。

※本コンテンツは、2023年1月18日(水)に開催されたJBpress/Japan Innovation Review主催「第4回 金融DXフォーラム」の特別講演1「お客様を起点とした『新しい金融体験』実現へのチャレンジ」の内容を採録したものです。

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銀行法改正を契機に加速した「新しい金融体験」への試み

 富山県を中心に66店舗を展開している富山第一銀行で、取締役 事業統括システム部長 兼 ダイレクトバンキング部長を務める長谷聡氏は、2017年の銀行法改正を契機に同行におけるデジタル戦略に深く携わるようになった。

 2017年の銀行法改正により、電子決済等代行業を営む「FinTech企業」に明確な法的位置付けけが与えられた。いわゆる「FinTechスタートアップ企業」であっても、十分な力さえ持っていれば「預金」「融資」「為替」という銀行の三大業務を代替できるようになったのだ。

 一方、銀行は銀行法改正に対応するべく、デジタル領域でどのような戦略を組むべきか、これまで以上に思案する必要が出てきた。そこで富山第一銀行では、システム領域において次のような5つの戦略を掲げているという。

(1)APIファースト
(2)通帳レス
(3)キャッシュレス
(4)お客さまのストレスフリー
(5)AIアーキテクチャ構築

 このようなイノベーションを推し進めていく上で、同行はどのようなスタンスを取っているのか。長谷氏は次のように説明する。

「ベンダーに頼らず、自分たちの知恵と工夫でアイデアを生み出すことを最も大切にしています。スタートアップを活用しながら要件定義は内製化し、デザイン思考を取り入れて、お客さま視点で物事を考えていくことも重要です。中小の金融機関に、潤沢な資金や人的な力はありません。しかし、このようなスタンスで取り組めば十分に戦えると思います」

 同氏が話すように、富山第一銀行は2018年5月に6社のスタートアップ企業と協働して銀行ポータルアプリ「ファーストバンクアプリサービス」をリリース。また、現在は非対面で各種ウェブ手続きができる試みも拡充中だ。同氏は「試行錯誤の段階」と話すが、従来窓口でしか行えなかった取引をウェブで完結できるようになれば、まさにデジタルの力を活用した「新しい金融体験」が実現することになる。