肥後銀行と鹿児島銀行の経営統合により2015年に誕生し、中・南九州に強固な基盤を持つ九州フィナンシャルグループ。同代表取締役社長 肥後銀行代表取締役頭取の笠原慶久氏は、「地方こそDXに注力すべきであり、そのために地域金融機関が果たすべき役割は大きい」という考えのもと、積極的にDXを推進してきた。地域金融機関に求められるDXとはどのようなものか。経済ジャーナリストの渋谷和宏氏との対談の中で、地域金融機関ならではのDXの在り方を明らかにする。

※本コンテンツは、2022年8月24日(水)に開催されたJBpress/JDIR主催「第3回 金融DXフォーラム」の特別対談「九州フィナンシャルグループのDX戦略~地域金融機関にこそ求められるDXの在り方・進め方~」の内容を採録したものです。

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「地方こそDXに注力すべき」という2つの理由とは

渋谷和宏氏(以下、渋谷) 2021年11月には肥後銀行、2022年2月には傘下の九州デジタルソリューションズ、5月に鹿児島銀行、8月に九州フィナンシャルグループ自体が、DX認定事業者として経済産業省による認定を受けられました。その経緯をお聞かせ願えますか。

笠原慶久氏(以下、笠原) DX認定制度の前身として、2018年に経産省が第1回目の「DXレポート」を出し、その後も第2回の準備とDX認定制度の検討にあたって、さまざまな方面と議論が行われていました。

 そのころ、私は肥後銀行のCIOとして次期システムの更改プロジェクトに携わっており、アドバイザーであるPwCあらた監査法人からDXに関する多くの知見をいただきました。私たち自身と地域の中小企業のDXをどのように進めていくか、活発に意見交換を行い、経産省ともやり取りしていたのです。その後、認定制度が始まったところでお話をいただき、それまでの議論をもとにDX計画を策定して申請したという流れです。

渋谷 DX認定事業者になったことで、行員の意識に対する影響は大きかったですか。

笠原 はい、現場の業務効率化でデジタル化を実感することもありますが、やはりトップがコミットメントをし、経営計画にもそれが落とし込まれ、かつ経産省から認定されるということは、内外へのアナウンスメント効果が大きいものです。グループ内でも「肥後銀行が認定されるなら、自分たちも」と、各社が申請に動いたという効果もありました。グループ内で4社がDX認定をとることができて、本当によかったと思っています。

渋谷 素晴らしいです。笠原社長は常々「DXには、地方の企業こそ注力すべきだ」と言われていますが、その背景や理由はどのようなものでしょうか。

笠原 大きく分けて2つの側面があります。1つは、人口減少への対応です。日本全体もそうですが、地方の生産人口の減少は著しく、生産性が変わらなければ、人口減少の分だけ経済が縮小していきます。今から生産性を高めるためにDX、IT投資をしていく必要があります。

 2つ目は、デジタル技術によって地方と東京、大阪、福岡など大都市圏との距離がなくなるということです。これまで地方は「距離に守られている」と「距離が遠くアクセスできない」という両面があったと思います。その距離がなくなるということは、大きな脅威ですが、同時に、地方から中央にアクセスできるチャンスでもあります。

渋谷 確かに、リモート会議での距離を超越したコミュニケーションの在り方を見ると、東京の金融機関やコンサルティング会社が、地方の企業を対象にビジネスを始めることも、想像に難くありません。そうした危機感も含めて、地方こそDXが重要だという認識なのですね。