金融、特に銀行は早くからネット化、デジタル化が進んできた一方で、ビジネスの性格上、DXという意味では、他業界に比べて遅れを取っているようにも見える。持続的に安定した経営を行っていくために、銀行はDXとどう向き合っていくべきか。『金融DX、銀行は生き残れるのか』(光文社新書)の著者、静岡大学情報学部教授の遠藤正之氏に、銀行のDXの類型と先進事例、DX成功の鍵について解説してもらった。
ライフスタイルの変化、規制緩和、フィンテックの台頭など、金融機関の経営環境は激変の一途。今やDXによる変革は待ったなしです。金融業界におけるDXキーパーソンへのインタビューにより、DX戦略の全体像から、データ活用、CX、カルチャー変革、デジタル人材育成まで、金融DXの最新の事例を取り上げます。
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現状からの脱却にはデジタル活用しかない
――遠藤正之先生はメガバンクから大学に転じ、金融IT、特に銀行ITに関する研究を進めてこられたそうですが、これまでのキャリアと研究内容について簡単にご紹介をお願いします。
遠藤正之氏(以下敬称略) 新卒で三菱銀行に入行して、2015年9月までの32年半のうち約16年システム部に在籍し、第3次オンライン外為システム開発、東京三菱銀行システム統合、三菱東京UFJ銀行システム統合などのプロジェクトに、主に推進マネジメントの立場で参画してきました。
その後、社会人大学院で学ぶ機会があり、博士号をいただき、ご縁があって静岡大学に移りました。職務経験を活かし、金融情報システムのリスクマネジメントについて研究しているのと、15年頃から始まったFinTech(フィンテック)を追いかけていたので、それらを専門に文系と理系、双方の学生に教えています。
――かつてビル・ゲイツは、「銀行の機能は必要だが、今ある銀行は必要ない」という趣旨の発言をしたと著書『金融DX、銀行は生き残れるのか』にも書かれていますが、銀行の経営を取り巻く環境変化、現状の課題についてどうお考えですか。
遠藤 銀行自体が全くいらなくなるとは私自身は考えていません。ただ、旧来型の銀行のビジネスモデルは非常に高コストであり、また業務プロセスもアナログで、個別の顧客のニーズに十分対応できているとは言い切れません。
大口の重要顧客に対しては、きちんとしたサービスを提供しているのですが、それ以外に対しては表面的なサービスの提供に終始しており、収益的にも先細りするような状況にあります。
メガバンクは利ざやが確保できる新興国市場に進出することで活路を見出していますが、地方銀行は大都市圏への進出を目論見ようとするものの、既存のプレーヤーとの競争が激化するだけで、金融界全体としてはパイが増えるわけではありません。
こうした現状から脱却するには、デジタルを活用して効率的に幅広い顧客のニーズに応えていくしかありません。
――そうした中で銀行のDXの取り組みはどこまで進んでいますか。
遠藤 さまざまな取り組みが進んでいますが、まだまだデジタルを部分的に活用している段階で、旧来のビジネスと二本柱になるような新しいビジネスは見当たりません。
また、銀行ごとのサービスはそれなりに出てきているのですが、銀行界全体で協調する取り組みは弱い印象です。例えば、小口送金の「ことら」はメガバンクが共同で2022年10月にサービスを開始したのですが、プロモーションもほとんどなく認知度は不十分です。地銀では経営統合を契機にシステム共同化が進んでいますが、複数の陣営が乱立している状態です。