2024年元日の能登半島地震や「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の発表を受け、地震発生時のエネルギー供給への関心がビジネス界でも高まっている。特にガス供給は、市民の生活のみならずオフィスビルや工場の稼働を支える重要なインフラであり、その安全性と供給継続性が注目されている。都市ガス業界では、1995年の阪神・淡路大震災を教訓に、設備の耐震性や緊急停止機能の強化などが進められてきたという。
こうした地震対策は、実際の震災時にどのように機能するのか。また能登半島地震で明らかになった新たな課題とは何か。ガスエネルギー新聞常務取締役編集長の大坪信剛氏に聞いた。
阪神・淡路大震災後に進化した都市ガスの防災策
──2024年元日に発生した能登半島地震や、初の「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の発表など、今年は地震に対する関心が改めて高まった年でした。都市ガス業界としては、地震に対してどのような対策をとっているのでしょうか。
大坪信剛氏(以下・敬称略) 都市ガス業界としても、過去に大きな地震を経験する度に、そこで明らかになった課題に向き合い、地震対策を強化してきました。下図に示したように、ガス業界の地震対策は、①地震発生前の「設備」の耐震性強化、②地震発生時に安全かつ迅速にガスを止める「緊急」対応、③その後の早期の「復旧」対策、という大きく3つの要素で構成されます。
この基本的な考え方が確立したのが1978年の宮城県沖地震の時でした。次の大きな転機となったのが1995年の阪神・淡路大震災です。
都市ガスの場合、地震の被害でガス漏れが起こると、火災や事故を誘引してしまう可能性があるので、ガス供給を止める「緊急」(②)対応を重視していました。
一方で、「設備」(①)の耐震性強化は十分とは言えない状況でした。例えば、各家庭へのガス供給では、柔軟性の高いポリエチレン管など耐震性が高い導管の採用は全体の7割弱しかありませんでした。
ガス漏れが発生している地区のガス供給を止めても、火災等の二次災害が発生すれば新たにガスを止めるエリアが広がってしまいます。実際、阪神・淡路大震災では、停電していたエリアに電力供給が再開されると、電線が切れていた箇所で火花が出て家屋に引火する事態が起こりました。これにより、神戸市長田区を中心に大規模な火災が広がってしまいました。
また当時は、地震被害の大きいエリアだけガス供給を止めるといった「ブロック化」も進んでいませんでした。広範囲の地域に対して一様にガス供給を止めるしかなく、結果的に約86万戸でガス供給が停止し、完全に復旧させるまでに85日間も要することになったのです。
この経験を経て、緊急対応としてガスを止めるだけの対策では不十分であることが明らかになり、経済産業省等と協力しながら都市ガス業界は抜本的な対策の見直しに着手しました。