2003年にポイントビジネスの先駆者として誕生した「Tポイント」は2024年に消滅し、Vポイントへと統合された。一方、後発の「楽天ポイント」「dポイント」は新たな経済圏を構築して大きく成長し、さらに「Ponta(ポンタ)」「PayPayポイント」も次なる一手を講じようとしている。前編に続き、2024年10月に著書『ポイント経済圏20年戦争 100兆円ビジネスを巡る五大陣営の死闘』(ダイヤモンド社)を出版したダイヤモンド編集部 副編集長の名古屋和希氏に王者陥落に至ったTポイントの敗因や、ポイント経済圏五大陣営の動向について聞いた。(後編/全2回)
「キーパーソンの動き」から見える次なる状況変化
──前編では、ポイントビジネスが生まれた背景や各社の戦略について聞きました。著書『ポイント経済圏20年戦争 100兆円ビジネスを巡る五大陣営の死闘』では、一強支配体制のTポイントと後発の楽天ポイントの間で起きた「コンビニ加盟店争奪戦」について、その戦局を克明に描いています。取材を通じて、戦局の変化を早期に察知するためには、どのような視点が重要だと捉えていますか。
名古屋和希氏(以下敬称略) 「キーパーソンが今、何を考えているのか」「次はどのように動くのか」を押さえることが重要ではないでしょうか。
本書では、2015年当時、楽天ポイントの加盟店で最大の店舗網を誇ったサークルKサンクスが脱退に至る経緯を解説しています。この時、楽天ポイントは窮地に立たされました。その原因となったのは、2017年、サークルKサンクスがTポイント最大の加盟店であるファミリーマートとの経営統合に至り、楽天ポイントの扱いが停止されたことです。
ここでTポイントが牙城(がじょう)を死守した背景にあったのは、ファミリーマート元会長の上田準二氏とカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)取締役会長の増田宗昭氏の強固な信頼関係でした。この一連の攻防から見えてきたことは、両者の関係が揺らがない限り、Tポイントの関係も崩れない、ということです。
しかし、2019年にはサークルKサンクスの経営統合先であるファミリーマートが楽天ポイントの取り扱いを開始し、リベンジを果たすと同時に、Tポイントの一強支配体制に風穴を開けます。
ファミリーマートが大きく方向転換し、Tポイント以外のポイントも扱い始めた理由の一つは、上田氏の退任です。この出来事によってファミリーマート社内の権力構造が大きく変わり、Tポイントに加え、楽天ポイントやdポイントを併用する「相乗り」が実現しました。
キーパーソンを特定し、その人の考え方や今後の進退を見極めることができれば、状況の変化にいちはやく気付くことができるはずです。ポイント経済圏を巡る激しい攻防を見ると、その主役は「人」であり、人の感情に目を向けることの大切さが分かります。