イノベーションを継続的に生み出すプロセスとはどのようなものか。2019年にはイノベーション・マネジメントシステムの国際規格ISO56002がリリースされ、イノベーションを実践する組織の在り方、PDCAサイクルが示されたが、このガイドラインは成功を確約するものではない。では、イノベーションには何が必要なのか。
ISO56000シリーズのスキームオーナーとしてイノベーション・マネジメントシステム(IMS)の構築・実践支援を推進する組織、JIN(Japan Innovation Network)の常務理事・IMSエバンジェリストの松本毅氏がファシリテーターを務め、2023年11月1日に開催されたウェビナー「JINオープン・イノベーション対話シリーズ[第42回]パーソルが挑戦する大企業から新規事業群を生み出す仕掛け──両利きの経営(2階建て経営)を実現する」に登壇した、パーソルデジタルベンチャーズ代表取締役社長の長井利仁氏が語る。
「事業」と「事業をつくる人」を増やせない大企業が直面する壁
新しい産業、イノベーションを起こすためには、それを担う人材が必要だ。パーソルデジタルベンチャーズ代表取締役社長の長井利仁氏は「事業と事業をつくる人を増やしたいという思いで、事業創造を支援する役回りを担当してきた」と語る。しかし大企業には、常にこれを阻もうとする壁が存在しているのだという。
「1つ目の壁は既存のルールや社内の仕組みです。大企業には本業に合わせて確立されたマネジメントシステムがあり、これに適合するルールがあります。新規事業を始めようとするときに、従来の枠組みが邪魔をしてしまうこともあります。2つ目の壁は挑戦する人と仕組みが備わっていないことです。大企業には安定した経営基盤やブランドに期待する人が集まっています。不確実性の高い事業開発に挑戦する人が生まれにくく、またそのような人を支援しにくい構造になっています」(長井氏)
それでも、大企業には人材を含めた有形無形の資産がある。実際、欧米亜のイノベーション競争はスタートアップ主導であったものが、大企業とスタートアップ両輪の主導へと移行してきているという。
長井氏も「やり方さえ変えれば、大企業こそ事業を生み出すイノベーションの中心になっていける」と語る。そこで、パーソルは、本業と新規事業を適切な距離で共存させる仕組みづくりと、事業アイデアを創発するために現場を巻き込む仕掛けづくりに、グループ全体で取り組んでいるという。