デジタイゼーション、デジタライゼーションを経てデジタル化の最終目標となるデジタルトランスフォーメーション(DX)。多くの企業にとって、そこへ到達するためのルート、各プロセスで求められる施策を把握できれば、より戦略的に、そして着実に変革を推し進められるはずだ。
本連載では、『世界のDXはどこまで進んでいるか』(新潮新書)の著者・雨宮寛二氏が、国内の先進企業の事例を中心に、時に海外の事例も交えながら、ビジネスのデジタル化とDXの最前線について解説する。第8回は、産業競争力を左右する最重要分野として、エヌビディア、インテル、ラピダスなど多くの企業が競って開発する「AI向け半導体」の最前線に迫る。
ChatGPTの普及で変わる、アップル「Siri」の位置付け
生成AIは、2022年11月にオープンAIがChatGPTを公開して以降、2カ月で利用者が世界で1億人を超えるなど、普及が急速に進むとともに、供給サイドでもグーグルをはじめとした競合企業が次々と新サービスを打ち出したことから、その開発競争は激しさを増しています。
企業では、生成AIを自社の製品やサービスにどのように取り入れるべきか、バリューチェーンにどのようにして組み込むべきかを思案していますが、多くの企業は、差別化という「機会」と、コスト負担やリスクという「脅威」の狭間で、どの程度積極的に取り込むべきか踏み切れずにいるというのが現状です。
アップルもそのような企業の1つで、先行するChatGPTを見据えて、自社開発の音声アシスタントである「Siri(シリ)」のポジショニングを判断するという難しい選択を迫られています。
なぜなら、ChatGPTはSiriよりもはるかに優れ、文章や音声に留まらず、画像、動画、音楽など新たなコンテンツ制作において、すでに驚異的な能力を発揮しており、既存のデータや法則に基づいてアウトプットする従来のAIとは異なり、新しいコンテンツやアイデアの創出が可能という生成AIの最大の特性を恒常的に研鑽(けんさん)しているからです。
アップルは、2024年6月の年次開発者会議(WWDC)で、自社開発の生成AIである「アップルインテリジェンス」を発表しています。その際、「アップルインテリジェンスは、アップルだけが提供できるAIである」として、その独自性を強調しています。
独自性とは、iPhoneやMacに蓄積された電子メールや写真などのテキストや画像を分析して、利用者にあった文章生成や画像編集ができるというものですが、そのインテリジェンスは、ChatGPTに依存することになります。
なぜなら、例えば、Siriを起動して質問を投げかけたとき、ChatGPTの方が優れた答えが出るとSiriが判断した場合、利用者の同意を得た上で、ChatGPTの知識を回答することになるからです。