SUBARU 国内営業本部マーケティング推進部宣伝課 課長の安室敦史氏(撮影:川口紘)

「100年に一度」の変革期にあるといわれる自動車業界。EV化、自動運転化など製品・技術面の変化だけでなく、顧客の購買行動、購買サイクルも大きく変わってきている。その中でSUBARUは、顧客データを統合・活用するマーケティング基盤をいち早く構築。顧客理解を深め、徹底した顧客志向のマーケティングを展開することで販売拡大を図る。データドリブンマーケティング実現の軌跡を、国内営業本部マーケティング推進部宣伝課 課長の安室敦史氏に聞いた。

データ基盤を構築しても、すぐに使いこなせるわけではない

――SUBARUは2016年にCDP(カスタマーデータプラットフォーム)を導入して、データドリブンマーケティングへと舵を切りました。これは日本の自動車メーカーではかなり早い動きでしたが、導入のきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

安室 敦史/SUBARU 国内営業本部マーケティング推進部宣伝課 課長

2003年〜広告営業を5年経験した後、中途入社。入社後即ディーラー出向し、3年半販売現場を経験。 2011年〜出向復帰後はマーケティング部門にて東京モーターショー、オートサロン等のイベントや、モータースポーツ、パートナーシップ、メディアバイイングなど主にオフラインのマーケティングを3年半担当した後、Webトリプルメディアの運用を4年担当。2016年〜社内のデジタルトランスフォーメーションを担当しCDPやMA、アプリ、統合ID基盤の導入など、デジタルマーケティング基盤を構築。2023年〜宣伝課ではTV、デジタル、イベント、パートナーシップ、モータースポーツなど国内のプロモーション全般を担当。

安室敦史氏(以下、敬称略) 私は2014年にデジタルマーケティングの担当になったのですが、それまで自分がいたディーラーやイベント担当での経験に比べて、圧倒的に「お客さまが見えない」と感じました。この課題感から、散在していたデータを1か所に集約できるシステムである「CDP」(2016年当時はプライベートDMP)の導入を企画・提案したことがきっかけです。

 お客さまの購買行動を可視化して理解することで、適切なカスタマージャーニーを描き、広告を最適化する、お客さまの体験(CX)を向上させる、データ活用でディーラーを支援するといったことを掲げ、システム導入の承認を得ました。2016年当時はいわば「ビッグデータ元年」で、現在のように経営層から「DX」「データ活用」という言葉を聞くこともない時代でした。そのため、社内説明や説得には非常に苦労しました。

――データドリブンの実現には、データの「収集」と「統合」、そして「活用」が壁になったということですが、その中でも特に困難だったことは何でしょうか。

安室 データの収集と統合は、苦しみながらも「基幹系システムには変更を加えない」「SaaSを組み合わせる」「必要なデータの選択と集中」など、ポイントとなる気付きを得ながら進めることができました。それよりも、構築したデータ基盤を全員が活用できるようになるまで苦労しました。今のように活用されるまでには何年もかかりました。

――データ基盤があっても、活用し切れない理由は何だったのでしょうか。

安室 現在ではさまざまな企業におけるデータ活用のご支援をしていますが、どんな企業でもマーケティングをデータドリブンに変えていく中で、そこに疑念や戸惑いを持つ人がいます。その理由の1つは、データによって「不都合な事実」が明らかになってしまうからだと思っています。例えば、テレビCMの効果が定量的に計測されることで、それまでのクリエイティブが否定されたと感じる人もいるでしょう。また、全員がベクトルをお客さまに向けて仕事をすることが重要なのに、どうしても社内の評価が気になり、上司の顔色をうかがってしまうということもありました。