コロナ禍をきっかけに社会のデジタルシフトはスピードを増し、金融業界もまた、急激な変化と複雑化の渦中にある。そのような中、三菱UFJフィナンシャル・グループは「世界が進むチカラになる。」というパーパスを起点としたDXへの取り組みを推進している。デジタルを駆使した業務効率化や他社との連携を通じて、新たな接点の創出に取り組む同社。その詳細について、三菱UFJ銀行のデジタルサービス企画部DX室長 岩田廉平氏に話を聞いた。

※本コンテンツは、2022年8月23日に開催されたJBpress/JDIR主催「第3回金融DXフォーラム」の特別講演Ⅰ「MUFGのDXへの挑戦」の内容を採録したものです。

3つの領域で構成されるMUFGのDX戦略

「昨今、金融機関を取り巻く環境は非常に速いペースで変化しつつあります」。そう話すのは、三菱UFJ銀行 デジタルサービス企画部DX室長の岩田廉平氏だ。

 経済の低成長、低金利の常態化、少子高齢化といった構造的な課題に加え、新型コロナウイルス感染症拡大の影響でデジタルシフトの流れも加速している。さらには環境や社会貢献の意識も高まりを見せ、「会社の存在意義」がより強く問われる時代を迎えている。
 三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下MUFG)もこの流れを受け、2021年4月にパーパスを再定義した。

「われわれのパーパスは『世界が進むチカラになる。』です。ここでいう世界とは、世の中、社会、ステークホルダーの皆さんを指します。一人一人が前に向かっていくことを支援する、それがMUFGのパーパスなのです」

 このパーパスを起点として、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考える岩田氏。DXへの機運がさらに高まっていることも受け、MUFGが進めるDX戦略を「Improve」「Reform」「Disrupt」の3つの領域に分けた上で、取り組みを進めている。

「まず、Improve領域では、既存業務の改善を目指して電子化などのデジタルシフトを進めています。Reform領域では、外部事業者との連携によって既存のビジネスをさらに使いやすくし、新たな顧客体験を創出していくことを狙いとしています。そして『Disrupt』の領域では、ブロックチェーンやNFTといった、0から1を生み出す新規事業創出をテーマに掲げています」

 ImproveとReformの領域における取り組みの一例が、インターネットバンキングをはじめとしたオンラインチャネルの高度化、「次世代営業店」の実現に向けた取り組みだ。

 インターネットバンキング(三菱UFJダイレクト)の利用者数は、毎年100万人以上も増加していており、さらにコロナ禍で拍車がかかる。岩田氏も「コロナ禍の影響で顧客とのタッチポイントが大きくシフトした」と話す。それに伴いUIやUXの継続的な改善を行っている。

 一方で、「次世代営業店」で店頭取引の利便性向上も追求する。「待たない・書かない・持参物なし」という世界観を顧客に提供することを目指し、来店予約による待ち時間の削減、タブレットでの手続き完結と手続き時間の短縮、非対面チャネルを通じた専門性の高い手続きの実施などを順次実現している。

 また、現在、住宅ローン契約書の電子化は銀行全体で約95%まで推移しており、さらに法人取引における契約書の電子化の拡大も進めているという。

 2022年4月には「BizSIGN(ビズサイン)」という、法人融資では初めてとなる立会人型の電子署名サービスをリリースした。「融資契約以外の拡張性も高く、印紙代が削減できるメリットもあります。これらの取り組みは顧客の利便性向上にも資すると考えており、今後もさらなる電子化を推進していきたい」と岩田氏は語る。

外部事業者との連携で創出される新たな顧客接点

 一方、ReformとDisrupt領域の取り組みでは、FinTech企業など外部事業者との連携を進めている。これまで十分にアプローチできていなかった個人・法人の顧客との新たな接点を創出し、パーソナライズされた商品やサービスを提供していく狙いだ。具体的には、2022年中に株式会社NTTドコモと連携し、「dポイント」が貯まるデジタル口座サービスの提供を予定している。約8000万人の会員を擁するdポイントとの連携で、同行に口座を持たない顧客との接点ができると期待を寄せている。

 2021年12月にリリースした、資産形成を総合的にサポートする金融プラットフォーム「Money Canvas(マネーキャンバス)」も、MUFGグループの枠を超えた幅広い事業者との協働によって実現した。

「Money Canvasでは、他の金融機関やFinTech企業と連携し、株式、投資信託、クラウドファンディング、保険といった幅広い金融商品を提供しています。そのため、お客さまは豊富なラインアップの中から、自身にとって最適なものを選択することができます。資産運用について『興味はあるが踏み出せない』『必要性は分かるが、何をすべきか分からない』と悩まれている方にとって、一歩を踏み出すきっかけを提供したいと考えています」

 さらに、新たな取り組みとして岩田氏が挙げるのが「COIN+(コインプラス)」だ。COIN+は、株式会社リクルートと三菱UFJ銀行が共同出資して設立した株式会社リクルートMUFGビジネスが開発と運営を行うQR決済サービスである。

「リクルートには全国25万店以上に上る、決済サービス『Airペイ』加盟店の顧客基盤があり、さらに、『じゃらん』『ホットペッパー』といった消費者に深く根づいたチャネルを有しています。われわれは本業である決済業務の知見や『AML(Anti-Money Laundering)』といった金融ノウハウに強みがあります。これら、両社の強みを生かす事業としてCOIN+が生まれました。2021年12月には、COIN+を用いて決済、送金、出金などができるデジタル口座管理アプリ『AirWALLET(エアウォレット)』をリリースし、一般ユーザーに向けた商用サービスも開始しています」

 その他にも、Web3.0における分散化の流れと、NFTやメタバース関連の技術サービスへの対応を見据え、Animoca Brands株式会社とNFT関連事業の協業も進めている。

「日本の強いコンテンツがNFTを活用し、デジタルスペースにおける新たな価値創造に成功できれば、日本経済の成長にも大きなインパクトが見込めると考えています。Animoca Brandsが有する知財の権利化やNFT市場の運営ノウハウと、当行が有する顧客ネットワークや安心・安全な取引に関する知見とノウハウ。それぞれを持ち寄り、協業できる分野を模索している最中です」