トリドールホールディングス 執行役員 CMO 兼 KANDOコミュニケーション本部長 兼 丸亀製麺 取締役 マーケティング本部長の南雲克明氏(撮影:川口紘)

 業界常識を覆す成功を可能とする「丸亀製麺のマーケティング戦略」。前編では取締役マーケティング本部長の南雲克明氏に「KANDOドリブンマーケティングの目的と目指すもの」について聞いた。後編では、「南雲氏がいかにしてKANDOドリブンマーケティングを実践する土壌をつくっていったのか」「KANDOドリブンマーケティングをもとに丸亀製麺の商品やプロモーションがどのようにつくられていくのか」を、南雲氏への取材から明らかにする。

<ラインアップ>
■【前編】奇跡を生み出す秘訣、丸亀製麺のマーケティング戦略はここまでロジカルだった
■【後編】感性とサイエンスの両立が鍵、「丸亀シェイクうどん」を生んだマーケ戦略とは(今回)

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ミッションは「ブランドを強くして持続的に勝てるようにする」

 南雲氏はBtoCの世界で活躍するマーケターとして経営者の間でよく知られる存在であった。その南雲氏がトリドールホールディングス(HD)に入社したのは2018年の8月。そのときに、同社の粟田貴也社長から依頼されたことは「丸亀製麺のブランドを強くして持続的に成長できるようにしてほしい」ということだった。

 南雲氏は当時のトリドールHDの様子をこう語る。「丸亀製麺にはマーケティング部門がありませんでした。商品をつくってそのCMを流しておしまいといった状況。商品が当たれば売上・利益が伸びて、当たらなかったら伸びない。こうした消耗戦を繰り返していました。会社的にも踊り場に差し掛かっており、この状態から何とか抜け出す必要がありました」

 当時のテレビCMでは女優が江戸情緒が漂う場面でうどんを宣伝したり、お笑い芸人が商品の魅力をアピールするなどしていた。

「こうした繰り返しではブランド価値や顧客体験価値が蓄積されていきません。テレビCMについてもこれまでの発想を切り替える必要がありました」(南雲氏)

 その南雲氏が入社後、最初に行ったことはなんだったのか。

 それは社内的に「信頼関係を築く」ことだった。「『うちの会社に今度入ってきた南雲ってやつは何者だ』という感情がある中で、信頼されるために「営業部からの依頼は全部叶える」「数字で成果を出す」(南雲氏)ということだった。

 こうして周りの部門、特に営業部門から「南雲にお願いするとなんとかしてくれる」「南雲が考えたことを行えば数字が付いてくる」という信頼を得るようになっていった。前編で紹介した「丸亀製麺ではマーケティング戦略が全社一丸となった活動」となっているのには、こうしたことの積み重ねがあったのだ。

再現性の高いマーケティングを根付かせる

 その後、南雲氏は丸亀製麺のマーケティング戦略を感性に重きを置くとともに、同じくらいデータ活用にも重きを置いて構築していった。

 その取り組みは3つある。1つ目は、いかにしてブランドを強くして消費者に選ばれる確率を上げていくかという取り組み。そのために、キードライバーを見極めて経営資源を集中投下。売上を決定するいくつかの要素と消費者の中でのブランドイメージを織り交ぜてデータ分析して、マーケティングモデルを構造化、ブランドエクイテイ(ブランドの資産価値)をどのように消費者に浸透させていくべきかを見極めていった。

 2つ目は、徹底的な「消費者理解」に基づいた戦略構築。ターゲットをどこに設定するか(WHO)、ターゲット消費者のインサイトの発掘を中心に、一番重要な提供価値(WHAT)、それを伝えるための手段(HOW)まで仮説を立てて戦略と戦術を構築、実行、検証していった(消費者理解については前編で紹介した)。

 3つ目は、精度の高い最適なプランニングと意思決定を行う取り組み。あらゆる意思決定において、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)を中核においた数字の裏付けをもって、最も高い確率の手段をつくり上げていった。

 この3つで再現性の高いマーケティングのモデルにつくり上げておくことで、南雲氏がいない場面でもマーケティング戦略が滞ることなく遂行されるようにしたのだ。