マーケティング&イノベーションの世界的権威であるフィリップ・コトラー氏(ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院名誉教授)。同氏の著作は、世界中の経営者や研究者のバイブルとなっている。
最近では新たに『Marketing 5.0』(邦題:コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略/朝日新聞出版)や『H2H Marketing』(邦題:コトラーのH2Hマーケティング 「人間中心マーケティング」の理論と実践/KADOKAWA)を上梓。著書では一貫して「マーケティングこそ企業経営の最重要ポイント」と伝えている。
当講演では、マーケティングの第一人者として「激変する世界に取り残されないための新時代のマーケティング論」が語られた。
※本コンテンツは、2022年12月15日(木)に開催されたJBpress/Japan Innovation Review主催「第7回マーケティング&セールスイノベーションフォーラム」の特別講演3「The Future of Marketing.」の内容を採録したものです。
現代におけるマーケティングの役割とは
「未来のビジネスとマーケティングは、装置と人工知能AI、アルゴリズムといったデジタル世界で決定されるようになっていきます」
“近代マーケティングの父”として名高いフィリップ・コトラー氏(ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院名誉教授)はそう語る。デジタルの進化はとどまるところを知らず、マーケティングの世界にもデジタルの影響が及んでいる。
デジタルによるマーケティングの変化をコトラー氏は次のように説明する。
「デジタル革命以降、マーケティングは劇的に変化しました。しかし、装置が可能にするのはマーケティングの半分です。情報を入手し消化しマーケティング・ミックスしているだけでは十分ではありません。創造性が必要なのです」
コトラー氏は、これからのマーケティングにおいてはデジタルだけでなく、「創造的な新しい発想」の誕生が必要だという。例えば、従来、マーケティングは何よりも価格が大事だと考えられてきた。適正な価格をはじき出すことができれば、商品が売れて企業がもうかるという理論である。しかし、コトラー氏はそれだけでは現代の企業競争を生き抜けないという。
「価格は1つの要素に過ぎません。私は製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)という4つのPが必要であると考えています。なぜなら、物を買うという行為は価格のみで決定されるわけではないからです。4Pがミックスされることで、顧客によって魅力的かつ適切で、好みや収入レベルに合った製品をつくり出すことができます」
ここでコトラー氏は、マーケティングの役割を示す言葉として「CCDVTP」という言葉を提示する。これは、マーケティングの目的であるCCD=創造(Create)・伝達(Communicate)・提供(Deliver)と、マーケティングが提供する価値(Value)、ターゲット市場(Target market)、そして最後に利益(Profit)を組み合わせたものだ。
さらに「常に同じ物を売っていてはビジネスは長くは続かない」と続ける。その理由は、消費者が欲するものは日々変わっていくからだ。コストも変化し、原材料が入手できなくなる可能性もある。「半分は従来のものを、もう半分は新しい製品とサービスを考えて市場を構築していかなければ、遅かれ早かれ企業は脱落していくことになります」と、コトラー氏は警鐘を鳴らす。
「マーケティングの最大の目的は、顧客やステークホルダーの生活をよりよくし、彼らの幸せを追求することです。そして、顧客だけでなくステークホルダーも大切です。もし顧客満足のために従業員が不満を感じていたら、顧客に本当の満足は与えられません。これが私の『マーケティングの役割』についての考え方です」