既存事業で培ってきたアセットを活用しながら新しい市場を開発していくには、どのようなマーケティングが必要とされるのか。経済ジャーナリストの細田孝宏氏が、キユーピー上席執行役員で新規市場開発担当 兼 新規市場開発室長、カスタマーサクセス室長を務める藤原かおり氏に、同社が挑戦する新規のD2C(Direct to Customer:消費者直売)事業に貢献するマーケティングについて話を聞いた。

※本コンテンツは、2022年12月14日に開催されたJBpress/JDIR主催「第7回マーケティング&セールスイノベーションフォーラム」の特別講演2「キユーピーの新規事業~事業成長に貢献するマーケティングと市場開発~」の内容を採録したものです。

キユーピーがD2C事業を通じて提供したい価値とは?

細田孝宏氏(以下、細田) キユーピーの新規事業と、事業成長に貢献するマーケティングと市場開発について、同社で上席執行役員を務める藤原かおりさんにお話を伺います。藤原さんは現在、新規市場開発担当 兼 新規市場開発室長、カスタマーサクセス室長に就いています。これらの部署はどのような業務を行っているのでしょうか。

藤原かおり氏(以下、藤原) 新規市場開発室は、これまで私たちが注力してきた「スーパーマーケット等の低温食品売場」のビジネスチャンスを開拓するために立ち上げられました。カスタマーサクセス室は、後でご紹介いたしますが「Qummy」の会員さまとの対話や直販事業、顧客データの活用を通じて顧客への提案力向上の役割を担う部署です。

細田 店舗だけでなく、ECなど新しい領域に進出するための部署というわけですね。企業にとって新規事業に取り組む必要性をどのようにお考えですか。

藤原 食品は人口の増減によってマーケットサイズが大きく変動します。国内においては人口が減っていく中で、どれだけのお客さまが私たちの商品である食品にお金を落としていただけるのか。また付加価値の高い商品をいかに買い続けていただけるかというのが重要であり難しいところですが、そうした課題に対応するためにも必要なことだと捉えています。

細田 キユーピーでは、具体的にどのような取り組みを進めていますか。

藤原 われわれは2022年9月末に「Qummy(キユーミー)」というD2C事業を立ち上げました。キユーピーの「Q」、おいしいを意味する「yummy」、私のものを意味する「my」という3つの言葉を組み合わせて名づけられた試みです。

細田 「Qummy」は、どういった狙いで始めたのでしょうか。

藤原 キユーピーグループでは「2030ビジョン」として「サラダとタマゴのリーディングカンパニー(世界)」「一人ひとりの食のパートナー(お客さま)」「子どもの笑顔のサポーター(社会)」という3つの柱を掲げています。この中の「一人ひとりの食のパートナー」の実現については、お客さま一人ひとりの声を聞き、それに対してあらゆる商品や情報を届けるプラットフォームが必要であると考えたことがきっかけです。

細田 顧客と直接つながって理解するというのは、なかなか難しい課題です。

藤原 若い方から年配の方まで嗜好が多様化していますが、それら全てをタイムリーに捉え、対応したいと取り組んでいます。「あなたとつくる、野菜のある食卓。」というコンセプトのもと、100年先までの未来を見据えながら「外部パートナー」「社会・コミュニティ」「官・学」と連携して、「INNOVATION & EXPERIENCE」していただく場所になること。そして、その1番中心にいる「お客さま」と直接つながって、良い食卓を作り上げていくことを目指しています。

細田 D2C事業に取り組む上で、キユーピーのどのような強みを生かしていきたいとお考えですか。

藤原 当社は「マヨネーズ」が最も認知されている商品ですが、それ以外にも特に野菜にこだわり事業を行ってまいりました。カット野菜や総菜の事業なども手がけており、そういった野菜のカットや調理の技術、調味料の技術は間違いなく当社の強みです。また、100年以上の歴史を持つ会社であり、野菜や食についてお客さまと長きにわたって対話をしてきた経験があります。これらのアセットを活用し、KPIである「食卓幸福度の向上」を追求してまいります。

細田 これまではメーカーが消費者に直接アプローチするケースは少なかったと思いますが、今の時代、小売店に卸して販売してもらうだけでは足りないのでしょうか。

藤原 商品開発で良いアイデアが生まれても、少しエッジが立ち過ぎていたり、価格帯が高過ぎたりと、すぐに小売店で展開できないものも多くあります。そういったアイデアをアジャイルで開発して、評価されなければまたリニューアルして、ということをクイックに回せるような場を作りたいというのが始まりでした。こういったアイデアを実践する場所は、絶対に必要だと考えます。

細田 D2Cから始めて量販店や小売店に展開していくような逆の流れも可能になりますね。スーパーの棚の取り合いはずっと続いていますが、その説得材料に成り得るということですね。

藤原 「こういう方々がこのような点を評価している商品です」といったことが提案できるようになると思います。