経営戦略を構築する上で、基本となるのがマーケティングだ。デジタルメディアの広告主にとってウェブマーケティングは不可欠であり、その手法もさまざまだ。本稿では、東証プライム上場企業である、北の達人コーポレーション代表取締役社長 兼 現役WEBマーケッターである木下勝寿氏が、ウェブマーケティングの成果を最大化する「ファンダメンタルズ×テクニカル」マーケティングについて語った。

※本コンテンツは、2022年12月14日に開催されたJBpress/JDIR主催「第7回 マーケティング&セールスイノベーションフォーラム経営戦略を成功に導くマーケティング&セールスの今~」の内容を採録したものです。

ウェブマーケティングの鍵はフィードバックデータの活用にある

 事業のビジョン作成やビジネスモデル構築で必須のマーケティングにおいて、北の達人コーポレーションが行っているマーケティングの手法が「ファンダメンタルズマーケティング」と「テクニカルマーケティング」を掛け合わせることである。

 この2つのマーケティングは、元々が株式投資の用語から来ているという。ファンダメンタルズ投資とは、その企業のポテンシャル(経営力、事業内容、経営者、商品など)の将来性を判断して投資をする手法。一方のテクニカル投資は、企業自体の情報によらず、株価の値動きの法則性をベースにデータを分析し、その企業の株価の動向を予測して投資をする手法を指す。

 これをマーケティングの世界に取り入れたのが、ファンダメンタルズマーケティングとテクニカルマーケティングだと木下氏は説明する。

「ファンダメンタルズマーケティングは、以前からあるマーケティング手法で、商品そのものやユーザーのペルソナ、インサイトを分析して、顧客とのコミュニケーションを設計していくものです。一方のテクニカルマーケティングはインターネット特有のもので、ウェブ広告のクリック率や遷移率、購入率など、数値分析できるフィードバックデータをもとに、顧客とのコミュニケーションを設計する新しい方法です。極端に言えば、何の商品なのか、どんなユーザーが使っているかなど、ほぼわからないまま、データだけを見ながらチューニングして成果を出すことも、場合によっては可能です」

 例えば、誰に何を伝えるかを考える際、ウェブマーケティング登場以前は「40代で子供がいる」「 都心に住んでいる」など、大ざっぱなターゲット層の設定しかできなかった。これがウェブ技術を駆使できるようになったことで「化粧品のページをよくクリックする」「スマホでの買い物が多い」というように、よりピンポイントなアプローチが可能となった。こういったフィードバックデータを、テクニカルマーケティングでは活用していく。

A/Bテストを通じて、ユーザーに刺さる訴求ポイントを見つける

 実際に2つのマーケティングを活用していく際には、ファンダメンタルズ領域の中にテクニカル領域が包含されているという位置づけを理解した上で、以下のような流れで進めていく。

 まず、ファンダメンタルズ領域では、商品や競合、ユーザーの情報から仮説、戦略を立てる。いわゆる3C分析によって「情報収集」を行った後、どんな人に何を伝えていくかという「コンセプトワーク」を行っていく。ここまでは、従来のマーケティングと変わらない。その後、ウェブマーケット特有であり、どう伝えるかという部分である「クリエイティブ」の工程を経て「広告運用」と進んでいく。そして、出稿された広告を、フィードバック内容に基づきチューニングして再出稿する工程がテクニカル領域である 。

 ここでは、テクニカルマーケティングの典型的な手法として用いられる「A/Bテスト」について見ていく。A/Bテストは、提案された複数のクリエイティブのどれがより多くクリック数や購入につながるかを判断するものだ。

 A/Bテストを実施する際は、「何」と「どう」のレイヤーを分けて行うべきだという。商品について「何」を「どう」伝えていく各レイヤーでのテストなのか、きちんと意識する必要があり、それを踏まえて全体のスキームを理解しないと無駄になる可能性があるという 。

 例として、「とても軽い」「とても暖かい」という2つの特徴を持つ、フリースのクリエイティブを説明していこう。最初に実施するA/Bテストは、どちらの特徴をコンセプトに販売していくかを決める、「何」のレイヤーに該当するものだ。ここでは「このフリースは、着ていることを忘れさせる軽さ」と、「このフリースは、季節を勘違いしてしまうほどの暖かさ」の2つのクリエイティブが提案されたとする。ここで大事なのは、クリエイティブの良さではなく、訴求ポイントを比較することである。さらに2つのクリエイティブのレベル感を合わせることに留意すべきだと木下氏は指摘する。

「例えば、片方のクリエイティブであるAの方ですごく良い訴求フレーズを思いついたとして、その表現に引かれてAが選ばれてしまったら、肝心の『軽さ』と『暖かさ』の正確な比較ができません。訴求ポイントの比較が目的である以上、クリエイティブに優劣の差が生じないよう注意しないと、正しいテストが行えません」

 上記のような点を踏まえたテストを経て、結果的に訴求ポイントの「軽さ」の方が多くクリックされたと分かれば、この商品は軽さをメインに推していくことになる。そこで次の段階として、この軽さを伝えていくためにどういう表現方法が適切かについて判断する「どう」のレイヤーに当たるA/Bテストを行う。例として、第一段階で選ばれた「このフリースは、着ていることを忘れさせる軽さ」と、新しいクリエイティブの「このフリースは、奇跡の200グラム。スマホ1個分の軽さ」が挙げられる。ここでは、クリエイティブのレベル感を合わせる必要はない。

 A/Bテストなどを経て出稿されたクリエイティブが実際に広告運用に進むと、1日で効果が出たかどうかが判明する。

「そのフィードバック内容をもとにクリエイティブをどんどんチューニングしていく。ファンダメンタルズ領域で立てた仮説、戦略を実行しながら、テクニカル領域でブラッシュアップする。こうしたことをやりながら、成果を上げていくのが『ウェブマーケティングの強み』ということになりますね」と木下氏は語る。