今、セールスに求められるのは、「顧客の組織変革にアプローチする」という視点である。そのことを示唆するのは、アルマ・クリエイションの神田昌典氏だ。同氏は、日本で本格的にデジタル変革が起こり始めた2016年から、いち早く最新のデジタルツールの導入による組織変革を促してきた。その経験とマーケティングの視点から、「3つのタイプのキーマン」を攻略することがセールスにつながると提唱する。
※本コンテンツは、2022年3月16日に開催されたJBpress/JDIR主催「第4回 マーケティング&セールスイノベーションフォーラム」の特別講演4「トップマーケッター神田昌典が語るDX変革と組織論」の内容を採録したものです。
セールスで陥りやすい勘違い
セールスの定石として、「トップを落とす」「当社製品・サービスが分野トップの実績・品質であることを顧客に伝える」「決裁権を持つステークホルダー全員を納得させる」「ステークホルダーそれぞれの関心に添ったメッセージを届ける」「専門家による優れたコンテンツを顧客に提供する」などが挙げられる。しかし、「実はこれらは正しくない」とアルマ・クリエイション株式会社代表の神田氏は話す。
「アメリカで行われたある調査の結果では、平均5.4人の決裁者がいるというデータがあります。これは日本においても同様で、特に取引規模の大きい案件では、トップだけでは決まらないことの方が多い。また、1人の決裁者で決定する場合は81%の確率で契約が決まりますが、2人以上になると55%に下がることも判明しています」
分野トップの実績・品質であることを謳い文句に営業しても、競合の存在を理由に値切られてしまい、結果的に質の悪い契約になってしまう。また、ステークホルダーそれぞれのポジショニングに合わせた提案を行っても、質の高い契約にはつながりにくいという。さらに「専門家による優れたコンテンツを顧客に提供する」については、神田氏はこのように注意を促す。
「多くの企業がコンテンツマーケティングは重要だと考え、コンテンツを大量につくって顧客(潜在顧客を含む)に送っています。しかし、『サプライヤーからのメールなどのコミュニケーションに対する顧客の反応』を調べると、『題名も読まずにメールを削除した』『サプライヤーのメールリストから削除してもらった』『サプライヤーのメールをジャンクフォルダに送った』という反応が多いことが分かりました。それだけでなく、『そのサプライヤーから購入頻度を減らすことにした』『同僚や仲間にサプライヤーの悪口を言った』『そのサプライヤーの販売員と会うのを拒んだ』『その会社からの購入を完全にやめた』など、悪影響を与えてしまうこともあるのです」
コンテンツがあふれている現代においては、たとえ興味深い事実を含んだコンテンツであっても、ネガティブな反応を生みやすいというのだ。一方、顧客自身が自社のビジネスに関し「考えてもみなかった視点」からの情報に接したときには、ポジティブな反応が見られるという。