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 業界地図を書き換えるような新しいビジネスモデルを実現するテック企業が世界を席巻している。その理由は何か。単なる技術革新があるからではない。ビジネス界の中枢で根底から常識を覆す「ギーク」(変わり者)が活躍しているからだ。『ギーク思考』(アンドリュー・マカフィー著/小川敏子訳/日本経済新聞出版)から一部を抜粋・再構成し、教訓的な事例を紹介する。

 炭酸飲料業界で不動の地位にあったコカ・コーラ。競合他社が新しいマーケティング戦略を展開したとき、コカ・コーラは自社戦略を誤り、長年の信用までが失墜した。何が原因だったのか。

認知バイアスの典型例

ギーク思考』(日本経済新聞出版)

 大きな決定を誤れば大損失を被る巨大企業であっても、例外なく罠にかかる。これから紹介するビジネス史に深く刻まれた出来事は、自信過剰と確証バイアスには歯止めが効かないことを見せつけてくれる事例である。

 1985年4月23日、コカ・コーラCEOのロベルト・ゴイズエタは、ニューヨークで記者会見を開催した。そこでゴイズエタは、同社の主力商品に変更を加えるという衝撃的な発表をした。

「最高の商品がさらによくなりました…そうです、コカ・コーラの新しい製法を開発したのです*4」とゴイズエタは自信たっぷりに述べた。「ニュー・コーク」は世界中で速やかに発売され、1886年から使われてきた既存のレシピを引っ込めることも発表された(※)。あっけにとられる記者からの質問に対し、ゴイズエタは「もっとも簡単」な決断だった*5と応じた。

 もっとも簡単な決断と言ったのは、ニュー・コークの味のほうが好まれるというエビデンスがあったからだった。1985年、コカ・コーラは依然として炭酸飲料のトップだったが、徐々にペプシがシェアを奪っていた。その理由のひとつは「ペプシ・チャレンジ」というマーケティング戦略にあった。一般消費者に商品名を伏せてコカ・コーラとペプシを一口ずつ飲んでもらう。すると過半数の人々はコカ・コーラよりも、甘くてマイルドな味のペプシを選んだ。この調査結果は大々的に宣伝に使われた。

※ ニュー・コークに先駆けてコカ・コーラのレシピには2点の重要な変更がおこなわれていた。1980年に甜菜やサトウキビからつくられる砂糖が果糖ぶどう糖液糖に変更され、1903年にコカの葉の抽出液(コカイン)が取り除かれた。

4 Mura Dominko, “This Is the Biggest Mistake Coca-Cola Has Ever Made, Say Experts,” Eat This Not That! (blog), February 12, 2021, www.eatthis.com/newsbiggest-coca-cola-mistake-ever/.
5 Constance L. Hays, The Real Thing: Truth and Power at the Coca-Cola Company (New York: Random House, 2004), 116.