一橋ビジネススクール特任教授の楠木建氏(左)と味の素取締役代表執行役社長最高経営責任者の中村茂雄氏(右)

 味の素は2020年以降、時価総額1兆円を超える規模の企業としては異例の高成長を続けている。パーパス経営の導入や事業ポートフォリオの再構築、中期経営計画の廃止など、矢継ぎ早に大がかりな改革を打ち出してきた。多くの企業では改革疲れも見られる中、味の素はなぜ成長を加速し続けられるのか。その背景を、味の素取締役代表執行役社長の中村茂雄氏と一橋ビジネススクール特任教授の楠木建氏の対談で掘り下げる。

※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第10回 取締役イノベーション」における「特別対談:戦略ストーリーで描く2030:味の素のASV経営の進化と競争優位の未来/味の素取締役代表執行役社長最高経営責任者 中村茂雄氏、一橋ビジネススクール特任教授 楠木建氏」(2025年10月に配信)をもとに制作しています。

構造改革成功のきっかけとは

楠木建(以下、敬称略) 味の素についてまず注目したいのは、直近の業績推移です(下の図参照)。味の素はこの5年ほどで、売り上げ・利益ともに大きく成長しています。時価総額1兆円を超える規模の企業が、短期間でこれほど成長するのは、国内はもちろん世界中を見渡しても珍しいでしょう。

 しかも、この間に味の素で行われた構造改革の中身を見ると、かなりまれなパターンで成長を遂げたと考えられます。

 企業が急成長する際のパターンは、一般的に2つあります。1つは、大胆に不採算事業の売却や成長事業の買収を進めるパターン。2つ目は、外部環境の変化によって強烈な追い風を受けるパターンです。追い風とは、近年の典型的な事例で言えば、生成AIの急速な普及などが挙げられます。

 一方で、私の見立てでは、味の素の急成長はこのどちらにも当てはまりません。内側からの変化によって、理想的な成長を遂げているように見えます。味の素では、転機と考えられる2020年ごろからどのような改革が進められてきたのでしょうか。