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 危機や不祥事への対応力の差は「組織文化」に起因している。多様性が重視される時代に、組織文化をどのように築き、活かしていけばよいのか。「CQ(文化的知性)」を切り口に、国内外の企業や自治体で組織の課題を解決してきた著者が記した『強い組織は違いを楽しむ』(宮森千嘉子著/日本能率協会マネジメントセンター)から内容の一部を抜粋・再編集。

 以前は「上に従うことが一番」という文化だった、マレーシア味の素。組織の風土を180度転換させた大澤理一郎社長は、どのような施策を行ったのか?

一人ひとりが持つものを尊重する

強い組織は違いを楽しむ』(日本能率協会マネジメントセンター

マレーシア味の素社
代表取締役社長
大澤 理一郎 氏
1995年、味の素入社。2006年よりフランスに駐在し、2012年に帰国。国内外の事業を歴任し、事業推進に携わる。23年より現職。

■ フランスとは対極と感じたマレーシアの文化

――マレーシアへは社長として赴任されました。新工場ができたのは、大澤さんが着任される前年でしたよね。

大澤 ミッションは2つあると考えていました。1つはマレーシア味の素の事業を大きく成長させること、もう1つは新しいイノベーション、価値を創り出して事業構造を変えていくことです。生産能力で言えば、旧工場と比べて1.5倍。会社を成長させるための環境は整っていました。一方の事業構造はと言うと、60年以上の歴史があるわりに新しい製品が生まれていなかったのです。古い製品がいまだに主力でした。

――赴任して、どんな印象を受けましたか。

大澤 フランスとは対極だと感じました。会議では僕や経営メンバーの発言を皆が黙って聞いている。「意見があれば、ぜひ言って」と聞いても、シーンとしている。基本的に「待つこと」と「従うこと」が仕事のスタイルというか。「まずは様子見」という雰囲気でしたね。

――私が初めて大澤さんにお目にかかったのはその頃でした。「フラストレーションだ」とおっしゃっていましたよね。