カルビーとの安売り競争で疲弊していた老舗企業の湖池屋を「プライドポテト」のヒットを皮切りにV字回復させた佐藤章社長。同氏は沈滞していた湖池屋の組織にどんな考え方でメスを入れ、どのように社内にリブランディングを浸透させていったのか。
<ラインナップ>
【前編】湖池屋を再生させた凄腕マーケター、佐藤章社長が挑む「ポテトチップス革命」
【後編】沈滞する湖池屋を「イノベーションを生み出す組織」に変貌させた社長の手腕(本稿)
「モノづくりを担う人こそがマーケティングをやるべき」
――佐藤さんが湖池屋に転じた2016年は、社内には沈滞ムードが漂っていた時期だと思いますが、社員の意識を劇的に変えるのは大変だったのではないですか。
佐藤章氏(以下敬称略) 湖池屋に来てすぐ、ビジネス全体の考え方において「ここが違う」「あそこはこうしてみないか」と社員に矢継ぎ早に提案していき、「それが付加価値路線に向かい、競合他社とは対極的なポジションを作っていくことになる」と説いて回りました。初めのうちは社員みな疑心暗鬼だったろうと思いますが、そこが変わった起点は、やはり「湖池屋プライドポテト」のヒットでした。
前職のキリンビバレッジ時代、私は缶コーヒーの「FIRE」や緑茶の「生茶」、「アミノサプリ」、「世界のキッチンから」など新たな商品を次々と世に送り出しましたが、こうしたある種の“波状攻撃”によって、一般のお客さまの目に止まり出すのと、会社の風土や文化が変わっていくことが同期していきました。新商品の連打によって、同じ効果が湖池屋でも得られたと思います。
――「モノづくりを担う人こそがマーケティングをやるべき」という持論をお持ちですが、どういった考え方なのでしょうか。
佐藤 たとえば欧米型のマーケティング理論がたくさん日本に入ってきています。確かに商品が売れるためには販促や商品企画も大事ですが、その前に、何が生み出せるのかというもともと日本人が得意とする職人気質的な要素を大事にすべきだと考えています。
その点を商品の素材や加工面で考えても、ポテトチップスに使うにんにくであれば田子産が良いとか、同じ七味唐辛子でも、この地域はゴマ、この地域は柚子、と七味の中に入れるものが違います。販促以上に、そういった味覚の感覚をしっかり研ぎ澄ませていないといけません。
――キリン時代から“凄腕マーケター”として知られる佐藤さんですが、毎月行っているという社内のブランド戦略会議で最近、議論が白熱したテーマは何ですか。
佐藤 間もなくリニューアル発売するプライドポテトの商品戦略の議論には多くの時間を費やしました。
プライドポテトのコアユーザーで、毎週のように食べてくださっている方々のほうを向いた商品にするのか、それとも普段プライドポテトはあまり食べていない方や初めて食べる方に重点を置いたリニューアルにするのか。あるいは双方をアジャストさせた商品にするのか、侃々諤々の議論を戦わせました。
私はその議論の過程で揉めた際、いわば行司役を買って出る役割を担っています。リニューアルの試作品は新しい味を作ってはダメ出し、また作ってはボツみたいな繰り返しで煮詰めていくわけですが、味の官能評価やその味を実現した製法、新たにこの味を加えてみようといった要素を1つずつ丁寧に検証していくと、全員一致で「これがいい」と最終的には落ち着いていくものです。結果として、新しいプライドポテトの“こだわり度”は以前よりもさらに増すことになりました。