マーケティング戦略の中でもブランディングは、「好感度」や「ロイヤルティ」など“ふわっとした”イメージで語られることが多かった。そうした中、ユニリーバ本社でグローバルなブランド戦略設計を担った経験を持つ木村元氏は、顧客による購買をゴールに据え、売上や利益への貢献度なども含めたスコアとしての「ブランド・パワー」を提唱している。本連載では、同氏の『ブランド・パワー ブランド力を数値化する「マーケティングの新指標」』(木村元著/翔泳社)から内容の一部を抜粋・再編集、数値化したブランド・パワーをマーケティングに落とし込む方法を解説する。
第3回は、売上の構成要素としてのブランドを考える。
<連載ラインアップ>
■第1回 元ユニリーバのマーケターが語る、なぜ事業成長にはブランディングが重要か
■第2回 0から1を生み出す、ユニリーバの中長期的なブランド力向上の仕組みとは?
■第3回 重要なのはブランドか、営業か? ユニリーバで考えた売上拡大の独自ロジック(本稿)
■第4回 CMを打ったものの・・・「認知率」が上がったのに、なぜ売上が増えないのか
■第5回 なぜLUXの広告には、髪にツヤのあるハリウッド女優が起用され続けたのか?
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売上拡大に効くドライバーは何なのか
とはいえ、営業からマーケティングに異動した時は、様々なカルチャーショックと困惑がありました。売上と利益を上げるというKGIは全社で共通であるにもかかわらず、先に挙げたマーケティング内の二部門と営業とで重視しているKPIが異なるため、「どこのボタン(KPI)を押せば売上が上がるのか」がわからなくなったのです。
もちろん、あらゆる部署が全てのKPIを達成することが最適解であることは間違いないのですが、何かを強めようとすると、何かが弱まってしまうという、いわゆるトレードオフになってしまう部分も多々あります。
たとえば、0 → 1でブランドの中長期的な成長を考えるチームは、ブランドの世界観を統一することを重視し、プロダクトや店頭のポップ、CMなどのクリエイティブに対して、「ロゴの色が違う」「ロゴの位置が1ミリズレている」「髪は輝くのだ、艶めくのではない」などと、細かい指摘を入れてきます。そんなことより店頭で少しでも目立つビジュアルにしたほうがよほど売上に繋がるのではないだろうかと営業出身の私には解せないことも多く、モヤモヤしていました。
元々私は理系の出身で、数字やファクトに基づいて理詰めで考える左脳系のアプローチのほうが得意です。かつマーケティング未経験の私にとっては、特にコミュニケーションのビジュアルやブランドイメージに関する議論は理解しづらいことも多く、頭の中は「?」だらけでした。この困惑は、「マーケティングがわからない」という自分のコンプレックスに繋がります。時折、経営者やマーケターの中には独特の天才的なセンスを有している方がいますが、私はそのようなセンスに恵まれていません。
だから、自分の利点を活かして、ロジカルに体系化してみることにしました。
クリエイティブ的なセンスも含めて、自分にはマーケティングがわからないというコンプレックスを解消するために、感覚で議論されている部分を数字に置き換え、ブランディングがいかに売上に繋がるのかをロジックとして捉えるように試みたわけです。
マーケティングやブランディング、経営の書籍を読み漁り参考にしながら、また自分がいる環境を利用して、自分や関連部署の業務とKPI、その結果である売上を材料に少しずつ体系を固めていきました。
売上の構成要素の分解を試みる中で、私がまず疑問に思ったのは、一般的なロジックツリーにはブランディングの要素がないということでした。
ユニリーバは、中長期的に売上を生み出せるブランドを世界中で育てようとしています。短期かつ単年の売上を作ることを前提としつつ、並行して強いブランドを育てていくということが会社の大方針として決められているからです。