マーケティング戦略の中でもブランディングは、「好感度」や「ロイヤルティ」など“ふわっとした”イメージで語られることが多かった。そうした中、ユニリーバ本社でグローバルなブランド戦略設計を担った経験を持つ木村元氏は、顧客による購買をゴールに据え、売上や利益への貢献度なども含めたスコアとしての「ブランド・パワー」を提唱している。本連載では、同氏の『ブランド・パワー ブランド力を数値化する「マーケティングの新指標」』(木村元著/翔泳社)から内容の一部を抜粋・再編集、数値化したブランド・パワーをマーケティングに落とし込む方法を解説する。
第2回は、ユニリーバで実際に行われていたマーケティング/ブランディング戦略を紹介。
<連載ラインアップ>
■第1回 元ユニリーバのマーケターが語る、なぜ事業成長にはブランディングが重要か
■第2回 0から1を生み出す、ユニリーバの中長期的なブランド力向上の仕組みとは?(本稿)
■第3回 重要なのはブランドか、営業か? ユニリーバで考えた売上拡大の独自ロジック
■第4回 CMを打ったものの・・・「認知率」が上がったのに、なぜ売上が増えないのか
■第5回 なぜLUXの広告には、髪にツヤのあるハリウッド女優が起用され続けたのか?
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単年の売上と中長期のブランド成長を追いかけられる組織体制
約2年半の営業経験を経て、私はLUXのマーケティング部署に異動しました。
日本ではヘアケアブランドのイメージが強いかもしれませんが、LUXはボディローションやボディソープなどのラインアップを擁するトータルビューティブランドです。ブランドの名前は「Luxury」に由来しており、高貴かつ高品質なブランドイメージとともに、世界100ヵ国以上で展開されています。その時代のハリウッドスターを起用したテレビCMが、記憶にある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
当時、日本のヘアケア市場は、アメリカ、中国に次いで3番目に大きな市場でした。LUXはその日本市場のトップにおり、ユニリーバ・ジャパンの中でも最も売上の大きいブランドだったため、ユニリーバ・ グローバルでも日本のLUX事業は非常に注目されていました。
そのマーケティング担当ですから、当然、担う役割は大きく重要です。
優秀なマーケティング人材が揃う中に私が配属されたのは、実力があり期待されていたからというよりは、売上が大きいゆえに組織の人数も多く、他のブランドのマーケティング部に配属するよりリスクが少なかったからではないかと思います。もしくは、営業出身者として、既存にはない視点と思考によるアプローチを期待されていたのかもしれません。
配属の背景はわかりませんが、とにかく私のマーケティングのキャリアはLUXから始まりました。
当時、ユニリーバ・ジャパンのマーケティング部門は、0から1を生み出していくチームと、1を100に育てていくチームの大きく二つに分かれていました。
前者の0から1を生み出すチームは、中長期的なブランドの育成・強化、つまりこの本で言うブランドパワーの向上を役割として担います。ブランド戦略を構築し、新プロダクトの開発やリニューアル、テレビCMを筆頭とする大型キャンペーンなど戦略の骨子を担う施策を企画開発するのがこのチームの大きな役割です。また、多くのグローバルブランドでは「〇〇とはこのようなブランドであるべきだ」などという明確な指針がブランドブック*で定められています。グローバルで統一されたブランドイメージを醸成していくこともこのチームの重要な役割でした。
一方、後者の1を100にしていくチームは、策定されたブランド戦略や大型キャンペーンをもとに、プロモーション施策を企画・実行していく役割を担います。広告代理店と連携し、メディアプランニングの判断をしたり、コミュニケーションを開発したりするのもこちらのチームの任務です。単年のP & Lが最重要KPIとして設定されており、マーケティング投資に対する売上のシミュレーションをもとに予算の調整なども行います。
* ブランドブック:ブランドの理念や考え方をまとめた社内向けの資料で、ブランドガイドラインとも呼ばれる。ブランドの目指す方向性や価値観のほか、ロゴやプロダクトを露出させる時のビジュアルや表現に関する細かなルールが記載されていることもある。特に、ブランドをグローバル規模で展開している企業においては、ブランドブックが重要な役割を果たす。