創業から120年近い歴史を刻んできたスポーツ用品製造販売大手のミズノは、これまで培ってきたスポーツ関連ビジネスの知見を活かし、社会課題の解決を図る新たな商品展開も積極的に行っている。創業家で4代目となる水野明人社長に、同社の“変革スピリット”を支える企業文化や哲学、ミズノらしさについて聞いた。
コロナ禍の需要をいち早くつかんだ「マウスカバー」
――創業者(水野明人社長の祖父、水野利八氏)から受け継がれてきたミズノのDNAとは何でしょうか。
水野明人氏(以下敬称略) 当社はメーカーですから、いかに良い商品を作って提供するかが生命線です。創業者は「ええもんつくんなはれや」という言葉を残していますが、この“ええもん”には、高品質な商品を値ごろ感ある価格でお客さまに提供するだけでなく、技術的に高度な開発アプローチを怠らないというクラフトマンシップ的な要素も含まれています。
そして、しっかり地に足をつけた堅実経営を標榜してきたのは、「利益の利よりも道理の理」を重んじた創業者の哲学に拠るところが大きいと思います。企業経営はもちろん利益を出すことも大事ですが、「道理に外れたことをしてまで利益を得てはいけない」、「儲かれば何でもやっていいわけではない」という考え方は、創業以来ずっと受け継いできました。
社内で「3F」と称している「ファイティングスピリット」「フェアプレイ」「フレンドシップ」を大事にするという精神も創業者が唱えたものです。フェアプレイを遵守しつつ常にファイティングスピリットを持ち、スポーツを通じてフレンドシップの輪を広げるという3つが重要だという理念です。
――そうした創業精神をしっかり継承しながら、時代とともに新たな商品展開にも積極的に取り組んでいます。
水野 かつてはアスリートが1秒でも速く走る、あるいは1cmでも高く跳ぶことを実現するため、商品は機能性が最優先でしたが、最近は競技者向けのみならず、一般の生活者向け商品も増えてきました。機能性や快適性、耐久性などに加えてデザイン性を重視した情緒的価値なども商品を開発するうえで重要な要素になってきています。
――生活者との接点という意味では、コロナ禍の中、水着素材を転用して開発したマスクの販売が1000万枚を超えるヒットとなりました。
水野 当社では「マウスカバー」と呼んでいますが、コロナ禍でマスクの需要が逼迫していた中、水着素材の在庫がある我々なら飛沫の拡散抑制を図るマウスカバーが作れるという素早い発案と社員の頑張りによって、短期間で生産することができました。また、店頭ではなく当社の公式オンラインで販売したことが、枚数を伸ばす結果につながった要因です。
――水着やスポーツウエアなどは、機能性の高い素材を使った商品が増えていますね。
水野 以前から冷感素材の商品は独自に開発してきましたし、冬場は着用中ずっと暖かく、汗などの臭いも抑える「ブレスサーモ」という吸湿発熱素材もあり、一般生活者にとって非常に有用な製品になってきました。また、可能な限り再生素材を使うことにもこだわっています。