漁業、養殖から冷凍食品、レトルト食品、缶詰などの加工食品まで手がける水産業最大手、マルハニチロ。世界人口の増加も相まって水産資源の争奪戦が激しさを増し、価格も高騰するなど、改めて資源管理や持続可能な水産業の在り方が問われている。その中で同社が考えるパーパス・サステナビリティ経営とはどんなものなのか、池見賢社長に聞いた。
ミッションは「安定的に水産物を提供していくこと」
――最近はCSV(共通価値の創造)の取り組みとして「経済的価値」と「社会的価値」の両立を掲げる企業も増えてきましたが、マルハニチロではその2つに加え、「環境価値」も唱えています。その狙いについて教えてください。
池見賢氏(以下敬称略) 天然の水産資源は、もうこれ以上増えません。資源調査のデータを見ますと、資源的に余裕のある魚種は現在獲られている天然水産物のたった1割程度で、6割がこれ以上は獲ることができず、残り3割は獲りすぎの状態です。
そこで養殖魚種などが増えてきているわけですが、養殖も魚が病気になったり、温暖化による気候変動の影響で適正な漁場がどんどん北上していったりと、なかなか難しい問題を抱えております。
加えて海洋プラスチックごみの問題などもあり、それらの課題に我々がどう向き合い、どのように解決していくか。環境価値も高めていかないと、我々の企業価値全体が底上げできない時代と言えます。
一方で、世界の1人当たりの魚の年間消費量は、1970年代に10kgだったものが、今では倍の20kgまで増えています。世界人口は現在78億人ですが、2030年には7億人増の85億人まで増えるという試算も出ています。この7億人に20kgを掛けると、新たに1400万トンもの漁獲量が必要になる計算です。
この1400万トンはどんな数字かと言いますと、日本の現在の総漁獲量に、米国とロシアの漁獲量を足し合わせたボリュームなのです。途方もない数字だということがお分かりいただけるでしょう。
海外の先進国では和食ブームで寿司が人気ですし、アフリカをはじめとした新興国でも、魚は手軽に摂れる高タンパク源ということで消費量が年々伸びています。今後も安定的に水産物を提供していくことが我々のミッションですので、経済価値や社会価値に加えて、水産物の多様性確保や水産資源の保全といった環境価値と、三位一体で取り組んでいくことが不可欠だと考えています。