クラシエホールディングス代表取締役 社長執行役員の岩倉昌弘氏(撮影:内海裕之)

 経営破綻した旧カネボウから独立する形で2007年にスタートしたクラシエホールディングス(クラシエHD)。傘下にクラシエホームプロダクツ、クラシエ製薬、クラシエフーズを擁し、日用品、医薬品(漢方薬)、食品分野で事業を展開する。カネボウ時代から長らく日用品畑を歩み、2018年からクラシエHD社長を務めているのが岩倉昌弘氏だ。カネボウ時代の教訓や学びを通じて、クラシエで何を変え、どんな企業像を目指しているのか。岩倉社長に話を聞いた。

新ビジョン「CRAZY KRACIE」に込めた思い

 岩倉氏が社長に就く前年の2017年、クラシエHDは設立10周年の節目にあたり「10年史」を発行している。社史は一般的に50年、100年といった大きな区切りで出すことがほとんどだが、なぜ10年のタイミングだったのか。同氏はこう述懐する。

岩倉 昌弘/クラシエホールディングス代表取締役 社長執行役員

1961年兵庫県出身。1985年3月関西大学卒業後、同年4月鐘紡入社。2005年カネボウホームプロダクツ販売代表取締役社長、2006年カネボウ・トリニティ・ホールディングス執行役員、カネボウホームプロダクツ社長執行役員などを歴任。2007年6月クラシエホームプロダクツ社長執行役員、2009年10月クラシエホールディングス常務執行役員、2016年3月クラシエホールディングス取締役 専務執行役員 経営企画室長などを経て2018年1月クラシエホールディングス代表取締役 社長執行役員に就任し現在に至る。
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好きな言葉:「一生懸命」
尊敬する経営者:松下幸之助
愛読書:『坂の上の雲』(司馬遼太郎)

「10年史は1部と2部に分かれていまして、1部はクラシエが歩んだ10年の振り返りです。いまではクラシエ発足後に入社した社員が6割から7割を占めているので、カネボウがなぜ破綻したのかはもちろん、カネボウという社名を知らない社員も少なくありません。

 そこで2部では、カネボウが破綻した理由について赤裸々につづりました。破綻時の社員のインタビューコメントなどもあえてそのまま載せています。2部の内容は、風化させない記録として絶対に残しておくべきだと考えました。当時の経営陣を批判するのはたやすいのですが、幹部や社員だった我々が何もできなかったという反省も込めて作ったのです」(以下「」内の発言はすべて岩倉氏)

 クラシエHDが10年の節目に掲げたビジョンは、「CRAZY KRACIE(クレイジー クラシエ)」。他に例を見ないこの過激な言葉遣いのビジョンは、社内外から耳目を集めた。

「新しいビジョンを打ち出すにあたって、文言の候補は最終的に4つに絞りましたが、経営会議の場で多数決を取ると『CRAZY KRACIE』に入れたのは、私ともう1人の役員だけ。あとは全員、クラシエらしい優しい表現の言葉に票を入れました。カネボウ破綻から10年が経ち、クラシエグループもようやく普通の会社に近づいてきた思いはありましたが、何となく社内の危機感が薄くなっていることも気になっていたのです」

クラシエビジョン「CRAZY KRACIE」

 カネボウは高度成長期、「ペンタゴン経営」と称された多角化を推進して業績を大きく伸ばしたが、いわゆる大企業病が蔓延してもいた。クラシエHDが同じ轍を踏まないためにも、社内に刺激を与える必要があったのだろう。

「先々、企業文化を変えていくためにも、新ビジョンは『CRAZY KRACIE』ぐらいでちょうどいいと考えました。クレイジーの意味は“狂気じみている”と捉えられがちですが、ビジョンを発表した2017年といえば、大谷翔平選手がメジャーに移籍した年で、米国人はみな、二刀流の大谷選手のことを『クレイジー』と称賛していたのです。ここでいうクレイジーの意味は、自分の想像をはるかに上回って感動するというニュアンスがあります。これだ、と思いました。

 最初のうちは『この会社はとんでもないビジョンを掲げている』ぐらいに思われてもいい。後々、商品やサービスを通じてお客さまに感動を与えるとか、世間からもそういう企業だと評価されればいいのですから。絶対にこの言葉がいいと思い、最終的には私が決めました」

クラシエ10年史