新型コロナウイルスは、人々のライフスタイルやビジネスの在り方に大きな変化をもたらした。多くの企業が既存のビジネスモデルの限界に直面し、存在意義を根底から見直さざるを得ない状況に立たされている。資生堂ジャパンも例外ではないが、その中でも同社はいち早く顧客のニーズの変化に順応。商品を販売するだけではなく、体験を価値とした新たなサービスへと移行するなど、DXに取り組んだ。同社がDXを通して何を大切にし、どのように変革を進めてきたのか。資生堂ジャパン株式会社Chief Digital Officerのスギモトトシロウ氏に聞いた。
※本コンテンツは、2022年3月23日に開催されたJBpress主催「第12回 DXフォーラム」Day2の特別講演Ⅰ「新しい体験価値創造に向けてのDX」の内容を採録したものです。
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製品提供型から体験提供型へのビジネスモデル変革が急務に
日々の生活や経済活動におけるあらゆるデータを蓄積し、IoTやAIを駆使してより豊かな社会の実現を目指す現在の技術革新は「第4次産業革命」と呼ばれている。その特徴は、規模が大きく、変化のスピードが著しく早いということだ。例えば、カメラは1980年代にアナログからデジタルへ主流が移り、さらに現在はスマートフォンへと置き換わった。わずか40年間の劇的な変化だ。
さらに、リアルとデジタルが別々に存在する世界から、デジタルがリアルを包含するOMO(Online Merges with Offline)への変化も目覚ましい。デジタル中心の世の中では、価値のつくり方そのものが変わりつつあるとスギモト氏は強調する。
「ビフォーデジタルでは、製品単体の価値提供が中心でした。企業は顧客の属性にフォーカスした商品開発を行い、売り切り型のバリューチェーンで販売していました。一方で、ポストデジタルの現在は、体験活動全体での価値提供が主流となっています。主役は社会や顧客であり、企業は人々の置かれている状況にフォーカスしながら、五感に刺激を与える体験を提供できるよう努力しています。つまり、顧客と企業で生涯にわたり価値を共創し合う『循環型バリューチェーン』へと大きく変化しているのです」(スギモト氏)
こうした変化に拍車を掛け、人々の行動や価値観に大きな影響を与えたのが、新型コロナだ。とりわけ購買行動では、多くの生活者がECチャネルで商品を購入し、実店舗に足を運ぶ機会が激減した。衝動買いも減り、初見のブランドに一目ぼれして買うよりも、周りからの評価が高い定番ブランドを選ぶ傾向が強くなっている。
購買行動の変化だけではない。自宅でゲームやメタバース、動画配信サービスやエクササイズなど、1人でも楽しめるパーソナライズ体験に没頭する人が増えている。だが、同時に、社会的に自分の存在意義を実感する機会が減少した結果、かえって共創活動への参加意欲が高まりつつあるという。こうした人々の生活や価値観の急激な変化は、歴史上類を見ない。今や企業は、こうした消費者の日々変化し続けるニーズを敏感に感じながら、新たな価値を提供する必要性に迫られているのだ。