男性向けのヘアスタイリング剤やスキンケア商品などで知られる化粧品メーカーの老舗、マンダム。同社は、創業90年の2017年に「人間系」という考え方を根幹に据えた新企業理念を策定。さらに2021年には、新たに就任した創業家出身の西村健社長が「BE ANYTHING,BE EVERYTHING.」というコーポレートスローガンを新たに掲げている。4年後の創業100周年に向けて、同社はどのような変革に挑もうとしているのか。西村社長に話を聞いた。
新スローガン「BE ANYTHING,BE EVERYTHING.」に込めた意味
――100周年を待たずして、創業90年の年(2017年)に新企業理念を発表していますが、そのタイミングで刷新した狙いはどこにあったのでしょうか。
西村健氏(以下敬称略) 当時はインバウンド(訪日外国人観光客)需要が盛り上がってきた時期で、化粧品販売も順調に伸びていました。ただ、振り返ると2006年に発売した「GATSBY(ギャツビー)」ブランドの「ムービングラバー」というヘアスタイリング剤がヒットして以降は、大きなヒット商品が出ていませんでした。
新たなチャレンジが許容される風土、イノベーションが生まれるような風土が、過去のマンダムに比べると少し希薄化してきたので、新たな企業理念で組織の停滞感や硬直感の打破を狙ったわけです。
また、AIをはじめとしたテクノロジーが日進月歩で進展し、あらゆるものが便利になっていく中で、当社の“日常生活でのお役立ち”の考え方も、ともすれば便利で楽なほうに流れてしまい、大事にしてきたお役立ち精神が失われかねない――そうした危機感を当時の社長(西村元延現会長)が持っていたのです。
改めて人の気持ちを思いやる心を持ち、人が喜ぶ姿を想像し、人に役立つ価値を創造することが大事ということで「人間系」というキーワードを掲げ、“奔放に大胆に”という文言も入れました。100 周年となる2027年は、時代はさらに大きく変化しているでしょうから、あえて90周年での刷新を決めたのだと思います。
――その後、2021年に社長を託されたわけですが、同年9月にコーポレートスローガンとして「BE ANYTHING, BE EVERYTHING.」(なりたい自分に、全部なろう)を導入しています。この意味について教えてください。
西村 世の中の規範やルールの中で、諦めてしまっていることが実はたくさんあると思うんです。たとえば、今でこそクールビズは社会に浸透していますが、当初は「ビジネスマンたるもの、スーツにネクタイはお約束」みたいな空気がありましたよね。でも、クールビズを導入したことでカジュアルにおしゃれや身だしなみを楽しみながら、人生の色どりを豊かにする効果もありました。
あるいは女性が仕事で疲れて帰宅し、本当はすぐにでも眠りたいのに、メイクは落とさなきゃいけない。そんな時に、水も使わずにメイクが落とせて、しかも保湿もできたら嬉しいですよね。そうしたニーズを満たす商材もマンダムから発売しています。
そのように、普段の忙しい仕事や生活にはさまざまな制約があって、諦めていることがたくさんあります。二律背反に見えても、それはちょっとしたアイデアや技術で解決できることも少なくない。そこで「BE ANYTHING, BE EVERYTHING.」というスローガンを掲げることで、思い込みや諦めを打ち破り、自分らしく生きることをサポートすることで生活者の日常をより豊かにしていくお役立ちができればという思いを込めました。
また、環境課題などにおいても品質とトレードオフしない社会におけるマンダムの在り方に通ずるスローガンでもあります。