コクヨヒューマン&カルチャー本部働き方改革推進総務部コミュニティデザインユニットユニット長の江崎舞氏(撮影:宮崎訓幸)
2011年 コクヨに入社し、企業のイノベーションセンターやコワーキングスペースなど働く環境の設計・デザイン業務に従事。デザインアワードの受賞や雑誌掲載の実績多数。2021年8月より働き方改革タスクフォースとして活動中

 企業が主力事業から新たな挑戦へと舵を切る瞬間には、必ず大きな決断と改革が伴う。新機軸に挑む企業の背景や経緯を掘り下げ、キーパーソンとその挑戦の舞台裏に迫り、未来を切り開くリアルな姿を伝える本連載。

 前回までに続き、2025年で創業120年を迎えるコクヨを取り上げる。20年ほど足踏みしていた売上約3000億円の壁を超え、2023年からは再び成長軌道を描き始めた。老舗企業に今どのような変化が起きているのか。今回もコクヨが作った働き方の実験場「THE CAMPUS(ザ・キャンパス)」プロジェクトのコアメンバーとして構想段階から携わった、ヒューマン&カルチャー本部働き方改革推進総務部の江崎舞氏に話を聞く。THE CAMPUS誕生により従業員に起きた変化とは?

長期ビジョンCCC2030誕生の背景

 新社屋プロジェクトには、2015年に社長に就任したばかりの黒田英邦(ひでくに)氏も参加していた。その頃、黒田氏は同時に、それまで3000億円で足踏みしていた売上を2030年に5000億円までに延ばすことを実現するための経営戦略「2030年に向けた長期ビジョン」の策定に取りかかっていた。

 2021年2月、「2030年に向けた長期ビジョン」は「長期ビジョンCCC2030」として、取締役会を通し外部にも広くリリースされた。3つのCは「Change, Challenge, Create」を表している。

 この長期ビジョンは、自社の持つ価値観や既存事業の強みを有効活用しながら、次々と新しい事業を生み出し、サステナブルに成長していく多様な事業の集合体になることを目指すものだ。そして、ビジョンを実現するために共有する価値観や強みを森林の土壌に例えた新しい経営モデルを「森林経営モデル」と呼んでいる。

 その趣旨は、①デジタルによるアナログ体験価値の高度化、②顧客の活動データを活用した新しい商品・サービスの展開、③スモールマスの付加価値ニーズへの対応、という3点を重点的に推進することで、事業領域の拡大と成長を実現するというものだ。

 そして社内では「自律協働社会」の実現に向けて、企業文化や組織・人材の在り方および個々の能力の発揮の仕方などを根本から変えていくことにも取り組み始めていた。そのような状況の下で、「THE CAMPUS(ザ・キャンパス)」は誕生した。