企業が主力事業から新たな挑戦へと舵を切る瞬間には、必ず大きな決断と改革が伴う。新機軸に挑む企業の背景や経緯を掘り下げ、キーパーソンとその挑戦の舞台裏に迫り、未来を切り開くリアルな姿を伝える本連載。
前回に続き、2025年で創業120年を迎えるコクヨを取り上げる。20年ほど足踏みしていた売上約3000億円の壁を超え、2023年からは再び成長軌道を描き始めた。老舗企業に今どのような変化が起きているのか。同社の人事改革を推し進める執行役員ヒューマン&カルチャー本部長、コクヨアカデミア学長の越川康成氏に話を聞いた。2023年12月期の過去最高益を支えた事業ドメインの再設定、コクヨに根付く従業員の力を引き出す独自の文化と仕組みとは?
マーケティング大学と大学院
コクヨ独自の人事施策で、越川康成氏(執行役員ヒューマン&カルチャー本部長コクヨアカデミア学長)が入社する以前から定着していた施策に「マーケティング大学・大学院」と「20%チャレンジ」がある。
「『マーケティング大学』は、全社員誰でも参加可能ですが、若手層がメインです。外部講師の方に来ていただいて、マーケティング思考での事業構想から事業計画に落とし込むまでを学び、その後にテーマに沿って、どんな新商品や新規サービスが考えられるかを提案してもらいます。
さらに30代以上に向けて『マーケティング大学院』もあり、こちらはもう少し難易度を上げて、未来シナリオを自分たちで考え、その上で新規事業の提案をしてもらう。それを1期につき半年以上かけてやっています」(越川氏)
他社でもビジネスコンテストと称して、社内で新規事業の提案を募ることはよく聞かれる。通常は、役員や事業部長の前で事業計画をプレゼンテーションして、事業として勝算があるかないか厳しく審査される。
「僕が驚いたのは、これらの新規事業提案の発表が、非常に心理的安全性が高い中で行われていることでした。提案する社員の発想も自由そのもので、事業としての利益や成功だけが目的になっているわけではないんですね。
それに対する(黒田)英邦(ひでくに)社長以下役員たちのフィードバックも、ブラッシュアップするためにどういう視点で再考すると良いかを一緒になって討議する姿勢でとても優しいんです」(越川氏)
「マーケティング大学の目的は、事業構想や未来シナリオを描いた上で自分たちで事業やサービスを考えることを経験する、というところにあります。事業の構想をまとめる手順をきちんと習得する、ということです。それを経験することで、今やっている仕事の質がぐんと上がります」(越川氏)