ウーブン・バイ・トヨタ エンタープライズAI Directorの谷内出悠介氏 (撮影:榊水麗)

 自動車産業が「100年に一度の大変革期」にある中、トヨタ自動車は「クルマ会社を超え、人々のさまざまな移動を助けるモビリティカンパニーへの変革」を掲げ、その実現に向けて邁進している。この変革をテクノロジーの側面から支えているのが、トヨタの子会社ウーブン・バイ・トヨタである。同社の「エンタープライズAI」は、AI開発のインフラ構築という重要な役割を担う組織だ。そのディレクターを務める谷内出悠介氏に、自動運転などの先進技術を裏から支えるAI開発基盤の概要や今後の展望について話を聞いた。

自動運転と都市に向けたAI開発のために

――ウーブン・バイ・トヨタの中で谷内出さんがディレクターを務めるエンタープライズAIという組織はどのような存在なのでしょうか。

谷内出悠介氏(以下敬称略) ウーブン・バイ・トヨタには、より安心安全な移動を実現するための自動運転・先進運転支援システム、車載ソフトウエアプラットフォーム「アリーン」、モビリティ社会実現に向けた実証実験の場「ウーブン・シティ」という主軸の事業領域があります。

 私たちエンタープライズAIは、これら全ての事業に対するAI開発のためのインフラやツールを提供する基盤開発を担当しています。AIの技術は日進月歩で進化しており、それを支える計算機などのツールやデータ処理の環境も常に最新のものが求められます。各チームが独自にインフラを維持管理するのではなく、私たちが一元的に提供することで、彼らが本来の目的であるAI開発に専念できる環境を構築しています。

――その中で力を入れているサポート領域はありますか。

谷内出 当社の主軸事業に関わる2つの領域です。1つは自動運転システムの開発、もう1つは都市向けの大規模言語モデル(LLM)です。

 この都市向けLLMは、テキストだけでなく画像や音声なども処理できる大規模なマルチモーダル言語モデルです。一般的なAIとの大きな違いは、都市インフラや交通システムなど実世界のさまざまなデータと連携し、それらを統合的に理解・制御するためのインターフェースとして機能する点です。